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インタビュー

歴史感を伴った根拠なき自信を持て

[菅付雅信]株式会社グーテンベルクオーケストラ 代表取締役、編集者

2016年7月22日(金)16時03分
WORKSIGHT

※インタビュー前編:資本主義の成熟がもたらす「物欲なき世界」

物欲レス時代を生き抜く企業戦略とは

 モノは今や僕らの周りに十分あります。あるどころか、あふれ過ぎているくらいですよね。先進国の消費者は「もうモノはいらない」と思い始めている。この状況を「物欲なき世界」として、消費の対象がモノからコトへシフトしていることを前編で説明しました。

 消費欲が落ちているいま、企業はどのように商品やサービスを開発していけばいいのかと悩む声が聞かれますけど、難しく考える必要はないと思います。

 いろいろな価値観があって、消費者の求めるもの、すなわちビジネス全体がモノからコトへ、サービスへ移り変わってきている。そういう現実がきちんと見えている企業はうまく行くと思います。みんなが欲しいサービスのために必要なモノもあるし、欲しいサービスのためのコトもあるでしょう。あるいは、欲しいサービスをお互いにやりとりするためのコミュニティの作り方もあると思います。コミュニティそのもの、またはそこで提供されるサービスの価値がより高まり、課金のチャンスも増えるかもしれません。

「モノのビジネス」から「ライフスタイルのビジネス」へ

 例えば音楽ビジネスは分かりやすい例です。業界全体としては資本主義を先陣で突っ走っていて、それゆえにある種の閾値に達し、昨今ではCDの売上が落ちるなど衰退している印象です。でも業績が好調な企業もある。それは基本的にライブやファンクラブを中心としたビジネスを展開している会社です。

 大物アーティストのコンサートチケットは、いまやファンクラブに入らないとほとんど入手不可能です。チケット代に加えてファンクラブの年会費も払わないといけないわけですが、入会しない限りいい席が取れないとなればファンは投資を惜しみません。

 このところコンサートビジネスの多くはこうしたファンクラブビジネスになっています。世界中どこでもそういう傾向がある。つまりCDやレコードといったモノのビジネスから、コトを提供するコミュニティのビジネスになっているわけです。それが分かっているところはうまく行っていて、分かっていないところはうまく行っていない。

 おそらく今後さまざまな業種で似たようなシフトが起こるでしょう。モノのビジネスからライフスタイルのビジネスへ。その変化をしっかり理解して対応できているかどうかで事業の将来は左右されると思います。

【参考記事】個人の身の丈に合った「ナリワイ」で仕事と生活を充実させる

うまく行っている会社は宗教に近い

 物欲レスの進行はマーケットの変化だけでなく、ワーカーのモチベーションの変化ももたらすでしょう。

 いままでよりお金はそれほど重要な動機付けにならないといえますが、しかし金銭的報酬が不要になるわけではない。A or Bのような二者択一ではなく、A and Bという複数条件になるのだと思います。お金もやりがいも追求することが一番いいビジネスで、そうすることで会社も儲かるし、世の中のためにもなる、それが一番いい会社ということです。実際、アップルやグーグルの社員はそう思っているんじゃないでしょうか。会社が大きくなることで世の中が良くなるはずだと信じている。従業員にそう思わせる会社がうまく行くということです。*

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