最新記事

イギリス

英国で260万語のイラク戦争検証報告書、発表へ ──チルコット委員会はどこまで政治責任を追及するか

2016年7月1日(金)16時05分
小林恭子(在英ジャーナリスト)

内乱勃発、テロ組織の温床ー様変わりしたイラク

ukiraq-cpt01.jpg
イラク戦争での英兵の戦死者は179人となった(BBCのウェブサイトより)

 独裁政権を倒した後に平和で民主的なイラクができる──そんな米英側の青写真は、その後の数年で見事に打ち砕かれた。イラクを占領下に置いた米国はイラク軍の解体、フセイン政権時代の与党バース党の解党を進めて党幹部に対する公職追放を実施したが、職を失い、怒り、武装したスンニ派とシーア派の内乱が発生するようになった。

 イラクはアルカイダなどのテロ組織の温床ともなった。ISISの前身「イラク・イスラーム国」がイラク中部ファルージャに生まれている。これにアルカイダ系戦闘員が合流して、現在のISになったと言われている。

 開戦から13年後のいま、バグダッドでは連日、シーア派を標的としたISIS(スンニ派)による爆弾テロが続発している。イラクは開戦前よりも治安が不安定な国になってしまった。

 2011年12月の米軍完全撤退時までに、米軍兵士は約4500人、イラクの民間人は少なく見積もっても10数万人が亡くなった──調査によって民間の死亡者は50万人から60万人規模ともいわれている。

「違法な」戦争に加担してしまったこと、多くの死者が出たこと、現在のイラクの惨状──そのどれもが英国民にとっては痛みであり、どうにも納得がいかないことである。

 英国を戦争に向かわせたブレア元首相、国会で参戦動議に賛成した議員たち、侵攻を可能にするためにイラクの脅威についての報告書を作った情報部の幹部たち、新たな国連安保理決議がなければ戦争は違法とする法的立場を途中から変えた法務長官――支配層に「裏切られた」と思うのは先のジャーナリスト、オボーンだけではなかった。

チルコット委員会までの長い道のり

 英国ではイラク戦争についての大掛かりな検証作業が数回にわたって行われてきた。

 税金を使った一連の検証作業が行われてきたのには、国民の側に「嘘の諜報情報で戦争に加担させられた」ことへの無念さと怒りが存在したことが大きい。

 しかし、チルコット委員会に至るまでの道は長かった。

 03年の下院外務委員会などによる検証では、大量破壊兵器保有についての情報が確かだったかどうか、侵攻が合法だったかどうかが問われたものの、「イラクの脅威は確かに存在した」と結論付け、国民の期待に十分に添うことができなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、中国製半導体に関税導入へ 27年6月適用開始=

ビジネス

米耐久財受注、10月は2.2%減に反転 コア資本財

ワールド

米当局、中国DJIなど外国製ドローンの新規承認禁止

ビジネス

米GDP、第3四半期速報値は4.3%増 予想上回る
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 5
    砂浜に被害者の持ち物が...ユダヤ教の祝祭を血で染め…
  • 6
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 7
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 8
    楽しい自撮り動画から一転...女性が「凶暴な大型動物…
  • 9
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 10
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中