選挙の当落を左右する!? 味わい深き「疑問票」の世界
erhui1979-iStock.
<あまり知られていないが、国政選挙で「手書き(自書式)」の投票を採用しているのは、ほぼ日本だけだ。手書きだからこそ生み出される微妙な「疑問票」について、参院選など選挙の季節を迎えようとする今、知っておいて損はない>
名前を書き間違えた有権者の「意図」を読み取れるか?
若い人は覚えていないかもしれないが、2005年の衆院選(総選挙)で、当時ライブドアの社長だった堀江貴文氏が広島6区から立候補した。結果としては落選してしまったが、もし『ドラえもん』と書かれた投票用紙が投票箱に入っていたら、このホリエモン候補への票ということで扱えるのだろうか?
もし『やわらちゃん』と書かれた投票用紙があったら、それは谷亮子候補への票だと考えていいのだろうか?
これをくだらない仮定だと、一笑に付す方々もいるかもしれない。だが、その一票を有効とするかどうかで、選挙の結果が変わってしまうのだとしたら大問題だ。
【参考記事】選挙に落ちたら、貿易会社の社長になれた話
選挙において、どの候補者、どの政党に投票したいのかがハッキリと伝わらない票を「疑問票」と呼ぶ。その存在は、開票作業を行う選挙管理委員会の人々を毎度悩ませている。
あまり知られていないが、国政選挙において「手書き(自書式)」の投票を採用しているのは、世界広しといえども、ほぼ日本だけだ。投票用紙に印刷された候補者の氏名に何らかの印を付ける「記号式投票」が国際的なスタンダードである。自書式投票の島国ニッポンでは、疑問票のバリエーションも多種多様の花盛りであり、ひたすらアナログ的でガラパゴス的な進化を続けている。
【参考記事】「予備選」が導入できない日本政治の残念な現状
普通に氏名や政党名を書けばいいのに、おっちょこちょいなのか、それとも意図的なのか、既成の枠にとらわれない自由すぎる記載が散見されるようだ。
それでも、国民ひとりひとりが持つ選挙権は、民主主義の心臓部である。正確に書かれていないからといって、そう簡単に無効票として片付けられない。その有権者が誰に投票したかったのかを推測し、微妙なニュアンスをくみとり、できるだけ有効票になる方向で拾い上げなければならない。
公職選挙法 第67条(開票の場合の投票の効力の決定)
投票の効力は、開票立会人の意見を聴き、開票管理者が決定しなければならない。その決定に当つては、第68条の規定[無効投票の規定 ※筆者注]に反しない限りにおいて、その投票した選挙人の意思が明白であれば、その投票を有効とするようにしなければならない。
手書き文字に対応する開票作業専用のOCR(自動読み取り装置)の精度も、今ではめざましい進歩を遂げている。1秒間に10枚以上を処理する機種もあるらしい。だが、ややこしい疑問票を投じた有権者の意図を推測することは、人工知能にとってすらまだまだ難しい芸当だろう。投票用紙というメディアを通して、人間の気持ちを読み取れるのは人間だけだ。