最新記事

人種差別

中国「黒人差別」の背景に約50年間のアフリカ蜜月あり

2016年6月16日(木)17時51分
楊海英(本誌コラムニスト)

 中国は国家戦略上アフリカ外交を重視し、「非洲(アフリカ)の兄弟」も中国を応援した。孤立状態だった毛沢東政権に71年に国連の中国代表権が承認されたのも、大票田アフリカからの政治的支援が得られたからだ。

差別で嫌中化する留学生

 中国は政治的利益から外交を重視するが、相手国の文化や歴史を研究する姿勢に欠ける。半世紀以上アフリカ諸国と交流を重ねても、一般の中国人は常に黒人に差別的な目を向ける。

 私が80年代に北京で大学生活を送っていた頃、中国語を学ぶ外国人留学生を受け入れる北京語言学院(現・北京語言大学)の学生はほとんどがアフリカ人留学生だった。「アフリカのために人材を育成する」とのスローガンの下で受け入れた学生に対して、「あいつらは黒鬼(ヘイクイ)だ」と公言してはばからない中国人が多かった。21世紀に入るまでに中国は約1万5000人ものアフリカ人留学生を迎えたが、中国で差別を受けた彼らの大半は嫌中意識を抱いて帰国する。

 近年もアフリカ人の中国在住者は増える一方だ。最も多い広東省では30万人以上が暮らす。ナイジェリアやアンゴラなどの人々が独自にコミュニティーを形成してビジネスを展開する。

 国際結婚を生活改善と立身出世の手段の1つと考える中国人女性も多いが、今でもアフリカ人と中国人との子供は「二黒鬼」と差別されている。在住者の9割以上を占めるといわれる不法滞在者の増加で治安は悪化し、差別も助長されている。

 黒人を洗濯して中国人に改造するという心理も、こうした背景から生まれたのだろう。

[筆者]
楊海英(Yang Haiying)
本誌コラムニスト
静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治区)出身。司馬遼太郎賞を受賞。著書に『日本陸軍とモンゴル』など。

[2016年6月21日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:EUの対中通商姿勢、ドイツの方針転換で強

ワールド

新潟県知事、柏崎刈羽原発の再稼働を条件付きで了承 

ワールド

アングル:為替介入までの「距離」、市場で読み合い活

ビジネス

日経平均は反落、ハイテク株の軒並み安で TOPIX
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 5
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 8
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中