最新記事

米世論

原爆投下を正当化するのは、どんなアメリカ人なのか?

2016年5月25日(水)17時00分
本川裕(統計データ分析家)

 さらに原爆投下の正当性と関連して、第2次世界大戦についての謝罪についての世論調査結果も見ておきたい。こちらは2015年にはアメリカのみで調査が実施された。そこで、ピュー・リサーチ・センターの報告書では、同センターが行った2013年の日本対象の同様の調査の結果と比較されている。

honkawa-graph02.jpg

 第2次世界大戦中の日本の行動についてアメリカ人の意識は、「十分謝罪している」が37%、「謝罪は必要ない」が24%、合わせて61%となっており、「謝罪は十分ではない」の29%の2倍にのぼっている。2013年調査の日本人の意識では、「十分謝罪している」が48%とアメリカ人より多いが、「必要ない」は15%とアメリカ人より少ないので、「十分ではない」はアメリカとほぼ同等の水準である。

 また、この時の調査では同時に、日本の謝罪とならんでドイツの謝罪についてもアメリカ人を対象に調査しているが、ドイツの場合、「十分謝罪している」を「謝罪は十分ではない」が上回っていて、両者が逆の日本とは対照的だ。

 これは日本とドイツの謝罪行動の差というより、犯した戦争犯罪について、ホロコーストの方が悪質だったと考え、また日本の方が原爆等の戦災によってより大きな苦痛を被ったと考えるアメリカ人が多いためではないかと推測される。

 それでは、広島と長崎の被爆者に共感する立場に立ちながら、より客観的な立場で、日本人としては、どんな態度でアメリカの原爆投下に対峙すれば良いのだろうか。

【参考記事】オバマの広島スピーチはプラハ型か、オスロ型か

 アメリカ人の中には、日米両国の戦争被害を早く終わらせるためとはいえ、一般市民を対象に核攻撃を実施したこと自体が非人道的な行為だったと考える人の他、世界で初めてかつ唯一アメリカが核兵器を使用したために、戦後の世界のアメリカの指導力が損なわれたと考える人が一定数存在し、また増えていると考えられる。

 実際、核兵器を使用して一般市民を無差別に殺害したという過去がなければ、核拡散や過激派の無惨なテロに対してアメリカはもっと毅然と対処できていたのではないかと感じざるを得ない。

「核なき世界」を提唱した2009年のプラハ演説以来、オバマ大統領が、核兵器を使用した唯一の国としての「道義的責任」を強調している背景にはそうした考え方があると思われる。日本としては、例え謝罪が為されても、それが将来の世界平和の実現につながらなければ意味がない。現在の常識から考えれば原爆投下は正当ではなかった、という見解をアメリカが正式に表明し、世界平和に向けたアメリカの指導力が少しでも回復できるよう、日本としては協力する以外にないのではないだろうか。


<筆者プロフィール>
本川裕(統計データ分析家)
1951年生まれ。東京大学農学部農業経済学科卒業。同大学院修了。現在、アルファ社会科学株式会社・主席研究員、立教大学兼任講師を務める。統計データサイト「社会実情データ図録」主宰。近著に『統計データが語る日本人の大きな誤解(日経プレミアシリーズ)』。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米、対スイス関税15%に引き下げ 2000億ドルの

ワールド

ロシア黒海主要港にウクライナ攻撃、石油輸出停止 世

ビジネス

米ウォルマートCEOにファーナー氏、マクミロン氏は

ワールド

中国、日本への渡航自粛呼びかけ 高市首相の台湾巡る
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 5
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 10
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中