最新記事

メディア

パナマ文書、巨大リークを専売化するメディア

2016年4月8日(金)19時03分
ポール・フォード(ニューリパブリック誌外部編集員、ポストライト社共同創業者)

 以下は先月、私がニューリパブリック誌に書いた記事からの引用だ。まだパナマ文書がニュースになる前のことだ。パナマ文書は、大きなトレンドの一部に過ぎない。



 アカデミー賞作品賞を受賞した映画『スポットライト 世紀のスクープ』の舞台は2001年ごろで、多くの登場人物が紙の書類を読んでいる。今の我々の問題は、この当時とはまるで別物だ。データはどこからでも入手可能。そこでメディアは、巨大なデータを大衆のために翻訳するという新しい役割を担うことになる。寄付で調査報道を行うNPOメディアのプロパブリカはその一例だ。彼らは、他のいくつかのメディアと共同で「ドキュメントクラウド」というプロジェクトを推進している。PDFファイルの山を検索しやすくする技術を開発するのが目的だ。

 巨大なリーク情報は、あまりに退屈で難解なので一般の人は避けて通りがちだ。アシュレイ・マディソンのように興味深い顧客データベースでさえもだ。私はダウンロードしてみたが、よくわからないデータばかりで本当に退屈だった。

 元CIA職員のエドワード・スノーデンやウィキリークスの例を挙げるまでもなく、我々はグローバルな巨大リークがあり得る新しい世界に住んでいる。そこでは、そうしたデータを吟味して加工し、利用可能な形にして、残りは一般人の手の届かないところに保管するのが事実上メディアの仕事だ。大衆でも理解できるような形にリークを加工し、どのリークが公開できるかを決めるのは2010年代のメディアの新たな責任ともいえる。そうした特権の代わり、メディアは訴訟リスクを負いながら複雑なデータと格闘する。

【参考記事】ウィキリークス爆弾で外交は焼け野原に

【参考記事】米検閲システム「プリズム」を暴露した男

 パナマ文書が流出したモサック・フォンセカ法律事務所の内部には、潜在的に腐敗した未完の世界経済があった。メディアは地図を完成させ、その結果を少しずつ小出しにして人々の関心を長引かせることで利益を最大化する。

 今回姿を表した「リーク・ジャーナリズム」の同盟は、世界の人々の利益にかなっているのだろうか。パナマ文書プロジェクトを率いた国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)はそう思って欲しいだろう。

 確信のある答えはない。なぜなら、私もパナマ文書の生データにアクセスできないからだ。アクセスできるのは世界でもほんの数百人の人間だろう。従って、パナマ文書がジャーナリストにとってではなく我々にとって何を意味するかがわかるまでには、まだ長い時間がかかることになる。


This article was originally published on the Track Changes site.

Paul Ford is co-founder of Postlight and a contributing editor at the New Republic.


 

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 6

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 9

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 10

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中