最新記事

対中輸出

「共倒れ」の呪文が世界に響くがうさんくさい中国経済脅威論

投資銀行や在米ロビーが唱える俗説には裏がある。真に恐れるべきは強権発動による香港恐慌だ

2016年2月22日(月)17時00分
河東哲夫(本誌コラムニスト)

呪文 中国経済が倒れると世界経済も共倒れになる?  traffic_analyzer-iStock.

「中国経済が倒れると世界経済も倒れる」という呪文が世界で唱えられている。「中国への輸出に依存する日本は危ない」「中国が米国債を大量に売却して米金利がつり上がる」など、おどろおどろしく人々を脅かし、為替や株価を動かし、儲けようとする魂胆が背後にある。中国に限ったことではないが、政治家やマスコミや欧米の大投資銀行などが長年作り上げてきたストーリーやレッテルを剥がさないと、だまされる。

 日本は対中輸出に「依存」し、これが「壊滅」すると日本経済は危ないのだろうか。影響は確かにあるだろう。日本は14年、全輸出の約24%、17兆円分を中国(香港を含む)に向けていて、これはGDPの3.5%に相当するからだ。しかし貿易が壊滅するのは、中国が長期の内戦になるようなときだけ。たとえ尖閣諸島で日中が戦っても、中国は輸入をやめない。日本からの部品や機械は、中国国内で組み立てている自動車や電気製品の生産に不可欠だからだ。

【参考記事】鉄鋼のたたき売りに見る中国の危ない改革先延ばし体質

 欧米や中国の識者は、「日本は自動車や電気製品を輸出して成り立っている国だ」と思い込んでいるが、これはもう20年以上前の話。今の日本企業は自動車の70%近くを海外で生産しているし、電気製品の輸出は大きく減って(多くの分野で競争力を失っている)、今では最終製品製造のための機械や部品を輸出してしのいでいる。

 14年の輸出上位10品目に家電・オーディオ製品は入っていない。部品類は合わせて全輸出の16%で、最終製品で首位の自動車(約15%)をしのいでいる。日本の対中輸出においても、輸出上位10品目のうち(13年、香港を除く)、最終製品では自動車で5200億円強、科学光学機器で8000億円強が入っているだけ。首位の「半導体等電子部品」9800億円強をはじめ、部品、原材料のたぐいで占められている。中国市場で消費され、中国自身の景気に売れ行きが左右される最終製品の比率は小さいのである。

【参考記事】中国進出の外資企業、景気減速でも巨大マーケットの消費者に熱視線

米長期金利に影響はない

「中国に手荒なことをすると、米国債を投げ売りされる」というのも、在米の中国ロビーがよく使う呪文だ。中国が保有する米国債は昨年8月時点で約1兆2700億ドル 。これを投げ売りすると、米金利は大きく上昇して不況になる。

 確かに中国は最近人民元の下落を防ぐために、元買いドル売り介入を繰り返している。昨年11月には1カ月だけで外貨準備が872億ドル減ったのもおそらく介入のためで、その際には米国債も売却しただろう。しかし、この程度の売却ではアメリカの長期金利に影響はないどころか、下落傾向さえ示している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 7
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 8
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中