最新記事

公害

赤色警報の中国も仰天、インドの大気汚染

ニューデリーのPM2.5濃度は世界最悪。当局は公共交通の充実などを約束するが……

2015年12月17日(木)17時00分
アバニーシ・パンデイ

真っ黒 スモッグに覆われたニューデリーの「インド門」の朝 Anindito Mukherjee-REUTERS

 先週、中国の北京市政府が深刻な大気汚染に対して初めて 「赤色警報」を発令した日、インドの首都ニューデリーの空気はもっと汚かった。

 米大使館が大気汚染度を測る指標として使っているAQI(大気質指数)によれば、12月7日の北京は、「256」を示した。有害な微小粒子状物質であるPM2.5の大気中の濃度に換算すると、1立方メートル当たり206マイクログラムに相当する。そして、同日のニューデリーのAQIは286を記録。PM2.5濃度で言えば、1立方メートル当たり230マイクログラム近くだった。

 WHO(世界保健機関)は昨年、世界の約1600の都市を対象に大気汚染を調査。その結果、ニューデリーの空気が最も汚れていると発表した。

 しかし、ニューデリーではPM2.5の濃度が「危険」とされる300を超えても(実際、先々週に何回も超えた)、北京のように市民に緊急警報を出す規定がない。

石炭火力への依存も問題

「大気汚染の深刻さと、健康被害の大きさから考えると、ニューデリーは直ちに手を打つ必要がある」と、同市を拠点とするNPO科学・環境センターのアヌミタ・ロイチョードリー代表は指摘する。彼によると、ニューデリーでは大気汚染に関連した疾患で、毎時1人以上が死亡しているレベルという。

 大気汚染対策の遅れを批判されたデリー首都圏政府当局は今月初め、市内での自家用車の使用を一時的に制限する計画を発表した。ナンバープレートを奇数と偶数に分けて、1日おきに走行を許可するという。当局は「2、3週間試してみて効果を確認したい。詳細は決定次第発表する。今のところ、来年1月1日から(本格的に)始める予定だ」としている。

 ニューデリーで登録されている車は約900万台。そのうち850万台近くが、個人が所有する車だ。当局は公共交通を充実させたり、地下鉄の駅から居住地域までの交通手段(バスやタクシーなど)との接続を改善するなどと約束しているが、実現の可能性は不透明なままだ。

「地下鉄は乗客であふれ、バスの台数も足りていない。政府はどうするつもりなのか」と、野党・国民会議派のP・C・チャコは言う。「政府が市の公共交通改善のために何かをしてくれたためしはない」

 石炭火力発電所から排出されるガスも、ニューデリーをはじめインドの都市部を覆う有毒なスモッグの一因になっている。

 中国は近年、石炭への依存を減らす努力をしているが、インドは今も石炭火力発電に大きく依存している。その結果、WHOが昨年に発表した報告書によれば、世界で最も大気汚染のひどい20都市のうち13都市をインドが占めている。このまま石炭を燃やし続ければ、状況はさらに悪化するだろう。

 ニューデリーを見て、他の都市は「明日はわが身」と考えるべきだ。

[2015年12月22日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾中銀、政策金利据え置き 成長予想引き上げも関税

ワールド

UAE、イスラエルがヨルダン川西岸併合なら外交関係

ワールド

シリア担当の米外交官が突然解任、クルド系武装組織巡

ビジネス

ロシア財務省、石油価格連動の積立制度復活へ 基準価
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 9
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中