最新記事

米社会

僕らの地球を救え!子供たちの公民権訴訟

2015年12月14日(月)16時00分
エリック・ボウルス

 今回の訴訟は、従来の政治的変化では対策が追い付かないとの認識が広がっていることを示している。来年の大統領選で誰が勝とうと、温暖化問題をめぐる議会の膠着状態は解消されそうにない。科学的に必要とされる規模の変化を起こすには、残された合理的な道は訴訟だけなのかもしれない。

「早ければ早いほどいい」

 今回のような訴訟の狙いは政治の活性化だ。最高裁判所に持ち込んで有利な判決を勝ち取る見込みは極めて薄いが、実現すれば歴史的判決となる。議会は経済への影響を極力抑えつつ、CO2排出を大幅削減する最善の道を決定することを迫られるだろう。

 現実には恐らく下級裁判所止まりだろうが、その場合でもより有利な判決を求めて、あるいは機運を高めるために、何年も後続訴訟が相次ぐと、専門家はみている。
 
 議会が重い腰を上げようとせず、後続訴訟も失敗すれば、子供たちが大人になる頃にはもう手遅れになっている恐れもある。「20~25年後の政治家は現在の政治家を『こうなったのはあなたたちのせいだ』と責めるだろう」とブラムは言う。

 気候変動は数十年の間に猛スピードで進む。いま政治的に何ができるかを基準に温暖化問題に取り組もうとすれば失敗する。温暖化対策を道義的責任と捉え、人ごとでないという意識を向上させるべきであり、今回の訴訟と後続訴訟はその一助になる。

 現在74歳のハンセンは13年にNASAを去った後も気候変動に関する研究を続け、温暖化対策推進を訴えている。「孫たちや未来の世代のためにやっている。仕事でやっていた頃より身近で差し迫った問題に感じられる。だからこそ頑張れる」

 ハンセンは今年7月、海面上昇が最も深刻な場合の短期的影響を評価した報告書を発表。13年の論文では、気候を安定させるにはCO2の排出と吸収を均衡させるカーボン・ニュートラルをいつまでに達成すべきかを具体的に示した。

 ハンセンを駆り立てているのは気候変動に対する政治的取り組みの遅れへのいら立ちだ。パリでの気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)に向けた準備の一環として、各国政府は大幅な排出削減を約束しているが、法的拘束力はない。

 別のリスクもあるとハンセンは言う。「人々が『不完全で不十分な解決策』をうのみにしては困る。問題を解決していないのに解決しているつもりになっては困る。勝利したと主張し、10年たってようやく勝利ではなかったと気付く危険がある」

 だからハンセンは今回の訴訟に加わった──主として議会と大統領に気候変動にもっと注意を向けるよう迫るためだ。「早ければ早いほどいい」

 これで訴訟に弾みがつくかどうか。それ以上に、この手の訴訟が成功するまで何年かかるか。何世代にもわたってアメリカ人の生活の質を左右することになるだろう。それでも絶望的と思われた同性婚には長い戦いの末に道が開けた。子供たちの戦いも始まったばかりだ。

© 2015, Slate

[2015年12月 8日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、米国との交渉を否定 国連大使「唯一の言語は

ワールド

トランプ氏、米軍は「永遠に」戦争可能 大勝利に万全

ワールド

トランプ氏、イランは協議望むも「すでに手遅れ」 指

ワールド

中東紛争4日目、攻撃広がり犠牲増加 想定以上に作戦
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び率を記録した「勝因」と「今後の課題」
  • 4
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 5
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 6
    人気の女性インフルエンサー、「直視できない」すご…
  • 7
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 8
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 9
    イランへの直接攻撃は世界を変えた...秩序が崩壊する…
  • 10
    「日本食ブーム」は止まらない...抹茶、日本酒に「あ…
  • 1
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 2
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 5
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 6
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 7
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 8
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 9
    中国で今まで発見されたことがないような恐竜の化石…
  • 10
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中