習主席、アフリカをつかむ――ジブチの軍事拠点は一帯一路の一環
アメリカもフランスも日本の自衛隊もまた、ジブチには軍事拠点に近い存在の施設を持っている。そこに中国も加わろうというだけで、これを「中国の軍事覇権」と批判することはできない。イエメン事件で外国人の救助を間一髪で成し遂げたのだから、その功績が評価されるのは当然のことだろう。
ただ、何が違うのか――?
それはジブチが「一帯一路」の「海の新シルクロード」の中継地点であるということだ。
中国より西側の西半球全てを覆うような一帯一路の地図をご覧いただきたい。
アデン湾から紅海へ、そしてスエズ運河を渡って地中海へとつなぐ「海の新シルクロード」。この重要な要塞の一つがジブチなのだ。
600億ドルの拠出金もジブチも、一帯一路に込められた「中国の夢」と「中華民族の偉大なる復興」という政権スローガンの具現化の一つなのである。アフリカは政治的な不安定から経済発展が遅れているが、しかし石油の埋蔵をはじめ、コバルト・白金(世界の90%)や金(50%)、クロム(98%)、コルタン(70%)、ダイヤモンド(70%)など、資源大陸だ。ここは実は宝の山。一帯一路戦略で安全保障を兼ねながら、この大陸を「つかむ」習近平政権の戦略を見逃してはならない。
たしかに日本も昨年から「日本アフリカ・ビジネスフォーラム」を開催し始め、アフリカのビジネスに乗り出してはいる。しかし「中国アフリカ協力フォーラム」は2006年から始まっており、さらには中国とアフリカの交流は1950年代から盛んに行なわれてきた。だから中国のあらゆる組織(大学や研究所あるいは行政省庁)に「アジア・アフリカ研究所」あるいは「アジア・アフリカ処」がある。このように中国とアフリカの関係は歴史が長く、一朝一夕で築いたものではない。
「習近平と安倍晋三」というアジアの二大巨頭は、さまざまな類似点を持っており、地球儀を俯瞰する外交でも常に競争しているが、中国の600億ドル拠出に対して、「それなら日本も」とばかりに「金額」で張り合うのはやめた方がいいだろう。日本国内の貧困問題や復興課題など、日本人の血税を注がなければならない優先課題は山積している。
中国はインフラ投資をする一方で、現地の企業や現地人の雇用を必ずしも優先しておらず、投資によって中国企業が儲かる例が多く、投資先国の国民とトラブルを起こすことが多い。また人材育成に関しては後進国だ。
まさに地球儀を俯瞰して中国情勢を正確に考察しながら、日本は量より質の政策で臨むべきだろう。
[執筆者]
遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。