最新記事

武器

残虐非道のエジプト大統領がイギリスで大歓迎

軍事政権に対する制裁は形だけ。ご贔屓のエジプト軍に武器を売りたいのが本音

2015年11月5日(木)16時32分
アンドルー・スミス

強権支配 シシは反政府派を容赦なく弾圧しているが、欧米諸国は見て見ぬふり Charles Platiau-Reuters

 エジプトのアブデル・ファタハ・アル・シシ大統領は英政府の招きで4日、ロンドンを訪れた。3日間の滞在中、デービッド・キャメロン英首相をはじめ英政府要人と会談する。軍人出身のシシはこれまでにも現政権の正当性をアピールし国際社会に受け入れられるために、こうした行脚を重ね、外面を取り繕ってきた。

 キャメロンと肩を並べてカメラに収まれば、エジプト政界の旧弊な体質を打ち破る改革者のイメージを打ち出せる。人権団体などが告発している凄まじい弾圧をなかったことにして、政権批判を抑え込むことができる。

 シシは、エジプト版の「アラブの春」(エジプト革命)を軍事クーデターで叩き潰した人間だ。そのわずか2年前には、ツイッターで「武装」した若者ら多くのエジプト人がカイロのタハリール広場を埋め尽くし、当時のムバラク大統領を辞任に追い込んだ。選挙も行われ、民主化への道を歩み始めていた。だがシシが実権を握ってからは、恐怖と恫喝と抑圧の支配を敷いてきた。エジプト軍は当時国防相だったシシの命令で選挙で選ばれた当時の大統領ムハンマド・モルシを政権の座から引きずり下ろすと、治安回復を口実に活動家ら1000人余りを殺害。何千人もの市民を拘束した。

 世論調査では、エジプト人の73%が大量処刑の責任はシシ大統領にあると答えているが、エジプト政府も国際刑事裁判所(ICC)も捜査に乗り出そうとしない。

 大量処刑を皮切りに、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルが「恣意的な逮捕、拘禁、警察の留置場での痛ましい拷問や死」と呼ぶ人権侵害の嵐が吹き荒れた。広く一般の人々が拷問を告発するなか、政府に批判的なメディアは閉鎖され、昨年の大統領選挙では汚職が横行して、シシは得票率96%以上の「圧勝」を遂げた。

キャメロンは現体制を厳しく非難したが

 こうした状況にもかかわらず、英政府は赤いカーペットを敷いて、シシを歓迎する意向だ。

 13年にシシが軍事クーデーターを起こした時点では、キャメロンは非民主的な手法を批判し、「真に民主的な政権移行」が必要だと主張していた。キャメロンの手厳しい発言に続き、EU(欧州連合)はエジプト向けの武器輸出の禁止を決定した。しかし予想された通り、強気のレトリックとは裏腹に、禁輸はほとんど形だけのものになった。

 EUの禁輸措置では、加盟国はエジプト国内で弾圧に使用される可能性がある武器の輸出を差し止め、軍用機器の輸出許可を再審査し、エジプトへの安全保障上の支援をすべて見直すことになっていた。しかしこの措置には法的拘束力はなく、細目ついては各国の解釈に任された。禁輸実施の期限は設定されておらず、輸出の「差し止め」や軍用「機器」といった言葉の意味や「国内での弾圧」などの定義も明確ではなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

香港の大規模住宅火災、ほぼ鎮圧 依然多くの不明者

ビジネス

英財務相、増税巡る批判に反論 野党は福祉支出拡大を

ビジネス

中国の安踏体育と李寧、プーマ買収検討 合意困難か=

ビジネス

ユーロ圏10月銀行融資、企業向けは伸び横ばい 家計
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 8
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中