最新記事

安保法制

中国は日本の武力的脅威になるのか?――安保法案の観点から

中国にはアメリカと戦う気がないので日本を攻めない。国として自立したいなら交渉すべき相手はアメリカだ

2015年9月17日(木)17時45分
遠藤 誉(東京福祉大学国際交流センター長)

自立か、庇護か アメリカは日本の尖閣領有権も認めていない(沖縄の米軍普天間基地) Issei Kato-REUTERS

 安保法案必要論の一つに「日本をとりまく国際情勢の変化」が挙げられる。北朝鮮を別とすれば、その変化の中には中国がある。では中国が日本の軍事的脅威になるのか。尖閣諸島に対するアメリカの姿勢から再考察する。

中国は日本に戦争を仕掛けてくるか?

 中国が日本に戦争を仕掛けてくるか否かによって、日本に対する中国の軍事的脅威が本当に存在するか否かが決まってくる。

 まず結論的に言えるのは、中国は戦争を仕掛けて来ないということである。

 その理由のひとつは、中国は絶対に負け戦をしないからである。 負け戦となれば、再び占領され、「中華民族の偉大なる復興」の夢が崩れてしまう。

 いま現在、中国の軍事力はアメリカの軍事力には勝てない。日本と戦いを交えれば、必ず日米同盟によりアメリカが日本の側に付いて戦闘する。となれば中国は負けるので、中国は日本に戦争を仕掛けて来ないということが言える。

 二つ目の理由は、戦争などをしたら社会の不安定化を招いて、これまで中国政府に対して不満を抱いているさまざまな層の人民が暴動を起こす。おそらく一気に民主化への道を選ぶだろう。中国政府はそれだけはさせまいと、国内に力を注がなければならなくなる。 

 結果、内憂外患に悩まされ、中国共産党の一党支配体制は崩壊するだろう。

 こんな危ない選択は、「共産党一党支配体制維持」を最優先課題とする中国には、あり得ないのである。

 それ以外にも経済のグローバル化がある。

 ここまで互いに相手の国に食い込んでいると、大きな戦争のしようがなくなる。たとえば中国にいる日本企業は多くの中国人従業員を雇用しているが、戦争になれば日本企業は撤退し従業員は解雇されるだろう。となれば解雇された従業員は戦争を起こした中国政府に対して暴動を起こす。そればかりではなく、互いに経済的損失が大きすぎるので、中国が日本に戦争を仕掛けてくることはないと考えていいだろう。

 したがって、少なくとも日本に関する限り、中国脅威論を以て安保法案の正当性を主張することは、論理的に弱い。

(ここでは北朝鮮の問題には言及しない。別途の論議が必要だからだ。)

問題はむしろアメリカ

 日本にとって最も大きな問題は、むしろアメリカだ。

 尖閣諸島の領有権に関して、アメリカは中立の立場を取っている。ニクソン政権のときに沖縄を日本に返還するに当たって、「アメリカがサンフランシスコ条約によって日本から預かったのは沖縄の施政権だけであり、いま日本に帰すのはその施政権のみである。領有権に関しては関与したことがない」とした。したがって「領有権に関しては中国、台湾および日本といった紛争関係者のみで解決すべきだ」という声明を出した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%

ワールド

ミャンマーで総選挙投票開始、国軍系政党の勝利濃厚 

ワールド

米北東部に寒波、国内線9000便超欠航・遅延 クリ

ワールド

米、中国の米企業制裁「強く反対」、台湾への圧力停止
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中