最新記事

中国

天津爆発事故後も相次ぐ「爆発」は江沢民派の反撃か

2015年9月10日(木)16時42分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

習近平体制をゆさぶるためという陰謀説

 さて、事故原因については「江沢民派の反撃」という陰謀論も出回っていた。習近平の統治責任を問おうというゆさぶりではないかという見方だ。その傍証となったのは、8月12日以後にも爆発事故が相次いだこと。天津爆発事故後に日本メディアが取り上げた事故を列挙してみよう。

・8月18日、広西チワン族自治区柳州市で工場の爆発事故。
・8月22日、山東省淄博市で化学工場の爆発事故。1人死亡。
・8月23日、江蘇省蘇州市で化学工場の爆発事故。
・8月24日、河南省鄭州市で化学工場の爆発事故。
・8月31日、山東省東営市で化学工場の爆発事故。13人死亡。
・9月1日、甘粛省隴南市で花火工場の爆発事故。
・9月3日、河南省開封市で化学肥料工場の爆発事故。

 これだけの事故が重なればもはや偶然ではない、テロなどの人為的要因があるのではないか......と考えてしまうのが人情だが、実は違う。人口が日本の10倍で、しかも安全意識の低い中国では、工場の爆発事故は日常茶飯事だ。日本人ツイッターユーザーの中国住み氏は蔓延する陰謀論への反論として次のようなリストを提示している。


 このリストですらすべての事故を網羅しているわけではない。実際には毎月数件の爆発が起きているのが実情だ。ちなみに爆発事故は例年秋から冬にかけて増加する。旧正月用の花火・爆竹の生産・備蓄が始まるためだ。9月1日に早くも花火工場の爆発事故が起きているが、今後も同様の事件が続くことが予想される。

「爆発事故の頻発」という傍証だけで陰謀論を唱えるには無理があることが、おわかりいただけるのではないだろうか。

「チャイナボカン」とメディア・バイアス

 また「爆発」という言葉にも罠が潜んでいる。例えば「工場爆発」と報じられたニュースでも、実際には「建物に火事。中から爆発音が。黒煙が立ちのぼった」ぐらいの話であり、タイトルから想像されるような話ではないことが多い。上述の天津爆発事故後の事件リストで言えば、爆発という言葉から連想される大事故は13人が死亡した東営市の事故ぐらいだろう。

 これは典型的なメディア・バイアスである。天津爆発事故があったため、通常ならば無視していた小さな「爆発」事故も日本メディアが取り上げるようになったため、あたかも中国で突然爆発事故が急増しているかのように見えてしまうのだ。

 また、中国メディアにも別のバイアスがかかっている。注目されてナンボの世界だけに、ともかく「爆発」という目を引く単語を使いやすい傾向があるのだ。その象徴が2011年に話題になった江蘇省のスイカ爆発事件だ。「膨大剤」なる成長促進剤を使ったスイカが次々と爆発した......とのニュースで、「チャイナボカン」(中国ではありとあらゆるものが爆発すると揶揄するネットスラング)の代表例として、日本のネットでも話題となった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英政府借入額、4─10月はコロナ禍除き最高 財政赤

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、11月速報値は52.4 堅調さ

ビジネス

英総合PMI、11月速報値は50.5に低下 予算案

ビジネス

仏総合PMI、11月速報値は49.9 15カ月ぶり
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 5
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 9
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 10
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中