遅きに失した遺跡保護の叫び
ISISの暴挙で注目される世界遺産の悲劇。シリア内戦が引き金で破壊と略奪の標的に
甚大な喪失 パルミラ遺跡をはじめ文明の貴重な記録が危機に直面している Khaled al-Hariri-REUTERS
シリア中部のパルミラ遺跡は、この国で起きる惨事のすべてがテロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)だけの仕業ではないことを、あらためて思い出させる。
ISISは征服した地域で遺跡の破壊や略奪を繰り返し、宗教的な偶像破壊だと主張している。イラク北部のモスル博物館や古代アッシリアのニムルド遺跡など、数多くの文化遺産が標的になってきた。
2〜3世紀に商業都市として栄えたパルミラは、古代ローマの神殿や列柱など数多くの遺跡が残っており、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界遺産にも登録されている。しかし先週、ISISはパルミラを制圧したと宣言。貴重な遺跡の命運を、世界中が案じている。
ISISは2月に、モスル博物館で大型ハンマーや電動ドリルを使って収
蔵品を粉々にする映像を公開した。今回も似たようなプロパガンダ映像が流されれば、世界中のメディアがパルミラ制圧のニュース以上に注目するだろう。そして、ISISの行為が世界の怒りを駆り立てるほど、彼らは同じことを繰り返す。
ただし、パルミラについて、多くの報道が言及していない事実がある。この地にISISが侵攻する前から、遺跡はシリアの内戦によって破壊されていたのだ。
ISISがブルドーザーでパルミラの神殿をなぎ倒したとしても、その壁
や柱は既に深刻な損傷を受けている。4年に及ぶ激しい内戦は、ISISが関与するまで、国際社会からあまり注目されていなかった。私たちはもっと早く、パルミラの古代遺跡の危機を直視するべきだった。
政府軍の軍事拠点と化して
13年4月に、バシャル・アサド大統領を支持するシリア政府軍と反体制派の戦闘によって、パルミラの遺跡が破壊されていると報道された。反体制派が遺跡の周辺や内部に攻め入り、政府軍がロケット弾や迫撃砲、砲弾などで迎撃したという。
シリア文化省文化財博物館総局のマムーン・アブドルカリム総裁は当時、政府軍を含むすべての勢力に対して遺跡から距離を置き、「(遺跡が)どちら側からも標的にならないように」求めたと語っている。
ユネスコも2年以上前から、パルミラ遺跡の状況に警鐘を鳴らしてきた。ユネスコが「シリアの砂漠のオアシス」と呼ぶパルミラは、13年から「危機遺産リスト」に記載されている。