最新記事

覇権

中国「アジアはアジアで守る」
脱アメリカ宣言の思惑

地域安全保障の主導権をアメリカから取り戻すという名目でアジアでの覇権を狙う中国の危険な構想

2015年1月16日(金)12時29分
ミンシン・ペイ(米クレアモント・マッケンナ大学教授)

野望 アジアでの影響力を強める姿勢を打ち出し始めた習国家主席 Greg Bowker-Pool-Reuters

 外交上の言辞と公式の政策は区別がつきにくい。中国は特に、政府の公の発言と行動が一致しないことも珍しくない。中国が提唱する「アジア人のためのアジア」という新しいスローガンは国内向けの国家主義的なアピールにすぎないのか、それとも本気で外交政策を転換するつもりなのだろうか。

 5月に上海で開催されたアジア信頼醸成措置会議(CICA)の首脳会議で習近平(シー・チンピン)国家主席は、「アジアの問題はアジアの人々が対処し、アジアの安全はアジアの人々が守るべきだ」と演説。アジアには協力して地域の平和と安全を構築する「能力と知恵」があると語った。

 習はさらに、アメリカが独占する現在のアジアの安全保障体制は、冷戦時代の構造に縛られていると暗に批判した。安全保障の枠組みを根本から見直し、アメリカの関与を大幅に減らそうという思いが見て取れる。

 もちろん、国内や地域の問題で干渉を受けたくないのは、どこの国も同じだ。しかし習の演説は、アジア太平洋地域におけるアメリカのプレゼンスに対して曖昧な態度を取り続けてきた中国が、方針を大きく転換するという意思表示でもあった。

欧米主導への対抗軸を

 中国の指導者は、アメリカの存在がロシアを牽制し、日本の再軍備を阻止していることを理解してきた。さらに、アメリカ主導の地域安全保障に対抗できる力が、自分たちにないことも認識していた。

 だが、こうした状況が変わりつつあるようだ。中国の方針転換として最も説得力がある例は、経済の分野で見られる。その代表が、「アジアインフラ投資銀行」と、中央アジアの新経済圏を想定した400億ドルの「シルクロード基金」を創設する計画で、欧米主導の国際機関に対する明らかな挑戦状だ。

 ただし、安全保障の分野はあまり前進していない。確かに中国は、台湾海峡や南シナ海にアメリカの介入を阻止するだけの軍事力を持つようになった。ロシアと中央アジア諸国との連携も深めている。しかし、そうした前進も、領有権問題における中国の攻撃的な姿勢のせいで帳消しになっている。

 東シナ海で一方的に防空識別圏を設けるなど、中国の挑発的な軍事行動の結果、日本との関係はかつてないほど冷え込んでいる。不安に駆られた東南アジア諸国は、アメリカが安全保障の枠組みに残り、中国ににらみを利かせてほしいと懇願する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ハセット氏のFRB議長候補指名、トランプ氏周辺から

ビジネス

FRBミラン理事「物価は再び安定」、現行インフレは

ワールド

ゼレンスキー氏と米特使の会談、2日目終了 和平交渉

ビジネス

中国万科、償還延期拒否で18日に再び債権者会合 猶
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 6
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 7
    世界の武器ビジネスが過去最高に、日本は増・中国減─…
  • 8
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 9
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 5
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 6
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中