船も遠隔操作で動かす時代
無人化によってより効率的な航海が可能になり、乗組員のための居住スペースや設備も不要になれば、最大20%の効率アップにつながるとロールスロイスは期待している。排ガスも20%減少する見込みだ。EU(欧州連合)は過去2年間に350万ユーロを投じて、「情報ネットワーク経由の船舶無人航法(MUNIN)」と称するプロジェクトを立ち上げている。
プロジェクトの責任者を務めるオルヌルフ・ヤン・ロドセスによれば、「最大の狙いは船のすべての機能のうち、どの程度まで自動化できるかを見極めること」だ。「短期的には、乗員を1人だけに減らして操縦の大部分を陸で行うようにしたい。そしてゆくゆくは、自動化技術によって海難事故がゼロになる日が来るはずだ」
アメリカでは、米国防総省の防衛先端技術研究計画局(DARPA)が対潜水艦作戦用持続追尾無人艦(ACTUV)を開発中だ。米海軍には既に米テクストロン・システムズ社が開発した、作戦投入可能な無人艇がある。
軍用であってもメリットはEUのものとそう変わらない。人間が生活するのに不可欠な設備を取り払えば、船体をスリム化できる。コンピューター、GPS、マイクロ波など多くのテクノロジーと同じように、無人船の技術革新も軍用から商用に転用するのはそう難しくはないはずだ。
ただし今すぐというわけではない。当然、抵抗もあるだろう。現在世界の海を航行中とみられる約10万隻の船の80%を代表する国際的船主団体「国際海運会議所(ICS)」の渉外責任者サイモン・ベネットは、無人船が実験段階を脱するまでにはまだ相当の時間がかかるとみている。
「船が無人で航行できるようになるのは20〜30年ぐらい先だろう」とベネットは言う。「現行の国際法では航行時の最少乗員数が厳密に定められている。乗員数の削減は反発の大きい問題だし、人間はとかくテクノロジーを過信しがちだ。システムがダウンすれば、われわれ人間の昔ながらの航海術だけが頼りなのだが、そのことを忘れずにいられるかどうか」
ベネットによれば10年後にはeナビゲーションというシステムがスタートする。現在の船舶航行管理システムでは船が岸に近づくと地元の沿岸警備隊から乗員に指示が出るが、それが自動化されるはずだ。