最新記事

中国

人民解放軍「暴走化」の読めない構図

繰り返される挑発行為は習政権の統率力低下を示しているのか

2014年10月10日(金)13時08分
アンキト・パンダ

新革命? 習は軍に異例の訴えをした。「私の命令を聞いてくれ」 Ryan Burke/Getty Images

 8月には中国軍戦闘機が南シナ海上空で米軍哨戒機に異常接近、9月半ばにはインドと領有権を争うカシミールで中国軍が実効支配線を越えて侵入──人民解放軍の大胆な行動を説明するためによく使われるのが、軍が「暴走している」という言葉。言い換えれば、挑発行為は中国共産党指導部と軍との間の指揮命令系統に問題があったせい、ということだ。

 人民解放軍は共産党に属し、習近平(シー・チンピン)国家主席は党の最高軍事指導機関である中央軍事委員会の主席なのに、そんなことがあり得るのか。
いや、案外これが中国軍の実態なのかもしれない。

 共産党指導部は軍を完全に掌握していないという見方を裏付ける出来事が最近、いくつか起きている。習は先頃、人民解放軍本部で演説した。注目すべきは、それが9月中旬のインド訪問直後だったこと。習の訪印中には、中国軍がカシミールの実効支配線を越えてインド側に侵入していた。習は「絶対的忠誠と党に対する不変の信頼」の重要性を強調したと、国営の新華社通信は伝えている。

 習が「指揮命令系統の統一」や「党指導部の決定の完全な履行」を強く訴えたことも、独断で動く軍司令官の存在をうかがわせる。「現場の司令官は安全保障をめぐる内外の状況についてよく理解しなければならない」と語ったというのも意味深長だ。
演説の場には、人民解放軍の房峰輝(ファン・フォンフイ)総参謀長も出席していたという。

 演説後に発表された声明には「人民解放軍は国家主席で中央軍事委員会主席の習近平の命令に従い、中央軍事委員会が定める目標や任務に合わせて作戦を作り直さなければならない」と記されていた。

軍を戒めた演説の奇妙

 これらの言葉から考えれば、軍が党指導部の承諾なしに、しかも指導部の戦略的意図に反する行動をした可能性は高そうだ。もちろん、軍の逸脱の程度を知るのはほとんど不可能。確かなことは、習が人民解放軍に「私の命令を聞いてくれ」と言う必要に迫られたということだ。

 習はインドのナレンドラ・モディ首相と会談した際、カシミールでの中国軍の侵入行為について、自分は何も承知していないと語った。この発言の真偽について考え直す必要もありそうだ。習がインドから帰国直後、軍に対してあのような発言をした事実は、侵入が軍の「暴走」だったことを示唆している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国万科、債権者が社債償還延期を拒否 デフォルトリ

ワールド

トランプ氏、経済政策が中間選挙勝利につながるか確信

ビジネス

雇用統計やCPIに注目、年末控えボラティリティー上

ワールド

米ブラウン大学で銃撃、2人死亡・9人負傷 容疑者逃
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 5
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 6
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 7
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 8
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 9
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 10
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中