中国が刺激したロシア海軍の復活
「腕試し」と歴史の重み
このほか中国は、日本と領有権争いを繰り広げている尖閣諸島(中国名・釣魚島)の近くにも漁船を送り込んできた。こうしたケースについて、新米国安全保障センター(ワシントン)のアジア太平洋安全保障プログラムのイーライ・ラトナー部長は、中国海軍がますます能力と洗練度を増しつつあるなか、中国政府が「腕試し」をしているのだと指摘する。
こんな中国の台頭が、実はロシア海軍の復活を助けている。中国の旺盛な資源需要のおかげで、石油・天然ガスから木材、鉄鉱石に至るまで、ロシアの輸出品である天然資源の国際価格は軒並み高騰した。これがロシアの国営企業に、そして政府に大きな利益をもたらした。この軍資金を元手に、プーチン政権は冷戦終結後20年にわたる凋落期を脱け出して軍備増強へ舵を切ったのである。
プーチンは今、20年までに軍事予算に約7000億ドルを投じると豪語している。その大部分は海軍力強化に向けられる見込みで、ロシア政府の「買い物リスト」にはアドミラル・グリゴロビチ級フリゲート艦6隻と空母6隻、ヤーセン級攻撃型原子力潜水艦8隻、そしてアメリカへの核攻撃が可能な弾道ミサイル搭載の新世代原潜も含まれている。
今も昔も、海軍は「強いロシア」のシンボルだ。北極海に面するムルマンスク州の軍港の沖合で、00年に魚雷の暴発で原子力潜水艦が沈没し、乗員118人が犠牲になったとき、自分の人気が急降下したことを、プーチンは忘れていない。
歴史を振り返れば、ロシアの偉大な支配者たちは必ず海を制してきた。
「ピョートル大帝はバルチック艦隊を欧州列強に見せつけ、ロシアはヨーロッパの大国だと宣言した」と言うのは、歴史家のアンドレイ・グリネフだ。「エカテリーナ2世は1770年にチェシメ海戦でオスマン・トルコ海軍を打ち破る一方、アラスカを植民地にしてロシアが世界の大国であることを示した」
こうした歴史はプーチンも意識しているのだろう。だからシリアのタルトスにあるロシア海軍の基地を復活させている(旧ソ連圏以外でロシア軍の施設があるのはここだけだ)。
タルトス基地は71年に建設された保守・修理施設だが、実際は全長800メートルに満たない小さな土地で、90メートルほどの浮桟橋が2つあるだけ。これではロシア軍が所有する最も小さいフリゲート艦も停泊できない。
またシリア内戦の激化に伴って、昨年には1隻のささやかな「浮かぶ補修船」だけを残し、その管理を現地の請負業者に託して、ロシア人スタッフをすべてタルトスから退避させたと発表している。それ以前にこの基地を訪れたことのある欧米系の外交官に言わせれば、「そもそもタルトスは、そこにロシアの基地があると言い張るための存在でしかない」。
しかしロシア側にはタルトス復活の壮大な計画があるようで、セルゲイ・ショイグ国防相は先に、ベトナムやキューバ、ベネズエラ、ニカラグア、セーシェル、シンガポールにもロシア海軍の基地を置きたい意向を表明している。
アナトリー・アントノフ国防次官も3月に「もちろん、複数の国にロシア海軍の補給・保守拠点を置くことには関心を寄せている」と語っている。「この問題については現在、話し合いが行われている」