最新記事

アジア

中国が刺激したロシア海軍の復活

2014年8月5日(火)12時01分
ビル・パウエル、オーエン・マシューズ

狙いは北極海に眠る資源

 ロシア黒海艦隊の元司令官エデュアルド・バルティンに言わせれば、「ロシアは20世紀末に残念ながら失ってしまった国力と国際関係を取り戻しつつある。誰だって弱い国ではいたくない」のだ。

 プーチンは、ロシアの経済的権益を拡大するためにも海軍力を使うつもりだ。
念頭にあるのは北極海。技術の進歩と気候の変化で、北極海の海底に眠る豊富な鉱物資源へのアクセスが可能になりつつある。ロシア政府は、北極圏の海底の多くは地理的にロシア北部の領土の延長であり、国際法の下でロシアに領有権があると主張している。

 一方、ロシア北方艦隊のアンドレイ・コラブリョフ司令官は20年前に放棄したノボシビルスク諸島の基地を再開させるという計画を発表している。ここに軍艦10隻と原子力砕氷船4隻を配備し、強化する考えだ。また、北極海に浮かぶほぼすべての島に軍の施設を置き、「空から水面下までを監視する統合システム」を構築したいという。

 北極海の底には膨大な量の石油・天然ガスが眠っているとされ、ロシアはその資源開発権を確保すべく、北方艦隊の艦艇を北極海に浮かぶフランツヨセフ諸島やセベルナヤ・ゼムリャ諸島、ノボシビルスク諸島、ウランゲリ島に送って巡視させる計画もある。この石油資源をめぐってはアメリカやカナダ、デンマーク、ノルウェー、さらに中国も権利を主張している。

 中国とロシアの海軍。この2つのうち、今のところアメリカが特に警戒しているのは中国海軍だ。中国政府の遠大な主張は「アメリカの軍事力と地域の安全保障に重大な影響を及ぼす拡張戦略」に当たる、とラトナーは言う。昨年12月には空母「遼寧」の打撃群に属する軍艦1隻が本隊から離脱し、米海軍のミサイル巡洋艦カウペンスに向かって真っすぐ進むという一触即発の事態も起きている。

 言うまでもなく、アメリカの海軍力は今も世界一だ。しかしライバルとの差は縮まっている。しかも急速に。

[2014年7月29日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インド首都で自動車爆発、8人死亡 世界遺産「赤い城

ワールド

トランプ氏、ジュリアーニ元NY市長らに恩赦 20年

ビジネス

ミランFRB理事、大幅利下げを改めて主張 失業率上

ワールド

台湾半導体「世界経済に不可欠」、防衛強化にも寄与=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一撃」は、キケの一言から生まれた
  • 2
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    中年男性と若い女性が「スタバの限定カップ」を取り…
  • 6
    インスタントラーメンが脳に悪影響? 米研究が示す「…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    「爆発の瞬間、炎の中に消えた」...UPS機墜落映像が…
  • 9
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 8
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中