貴族首相が変える世界とイギリス
では、当時のリビアにも増して国民を弾圧しているシリアに対し、同様の姿勢で臨まないのはなぜか。確かに「リビアへの攻撃は国連決議で認められ、アラブ連盟の賛同もあった」が、シリアの場合はそのどちらも得られていない。とはいうものの、キャメロンは不介入論に納得していないようだ。「シリアの体制を揺さぶる必要があるだろう。反体制派をもっと支援しなければならない」と強い口調で語る。
国連決議を経ずに「有志連合」によってシリアを攻撃する可能性はあるのか。答えるキャメロンの声は驚くほど熱っぽい。「コソボ紛争が証明したように、虐殺を阻止し、倫理的にも国益保護という意味でも正しい行動を取ることが義務になる事態では、国連決議なしでも行動していい場合があるのではないか」
つまり、国連のお墨付きが得られなくてもシリアへの武力行使に踏み切るべきだというのがキャメロンの考えらしい。
一方、核兵器開発疑惑があるイランについての持論は、そこまでタカ派的ではない。イスラエルが単独で軍事攻撃に踏み切ることには反対で、「制裁と圧力の路線」を推し進める方針だ。ただしイランがあくまで核兵器保有に突き進むなら、「どの選択肢も排除しない」という。
チャーチル以降のイギリスの首相は、けんかっ早い弟がのんきな兄をそそのかすように、アメリカの大統領に軍事行動を要求してきた。チャーチルはフランクリン・ルーズベルトに第二次大戦参戦を訴え、マーガレット・サッチャーは湾岸戦争で父ブッシュの尻をたたき、トニー・ブレアは十分好戦的だったジョージ・W・ブッシュを後押しした。今度はキャメロンがオバマをせき立てるつもりなのか。
そうだとすれば、ヒラリー・クリントン米国務長官が強い味方になるかもしれない。
2月下旬、ロンドンで開かれたソマリア問題に関する国際会議で、2人は顔を合わせた。93年に起きた「ブラックホーク・ダウン」の失態以来、アメリカはソマリア介入に極めて慎重になっている。キャメロンが言うように、内戦や飢饉に苦しむソマリアは「いくつかのピースを捨て去ったジグソーパスル」だ。その安定化には国際社会の力が欠かせないという点で、クリントンと意見が一致しているとキャメロンは考えている。
リベラル保守派のキャメロンにとって、ソマリア介入は人道主義的行動であると同時に、自国の利益のためでもある。現状を放置すれば、ソマリアの国民が犠牲になるだけでなく、イスラム過激派の温床になるからだ。
アメリカとの「特別な関係」を強化することに熱心なキャメロンだが、EUに対する態度は正反対と言っていい。昨年12月の財政規律強化合意に対する「拒否権発動」は、ほかの加盟国の指導者たちを驚愕させた。