貴族首相が変える世界とイギリス
EU内で独自路線を貫きアメリカにはシリア介入を要求。「リベラルな保守」を自任するデービッド・キャメロンの挑戦
衰えぬ人気 緊縮政策を打ち出してもキャメロンの支持率は高いまま Olivia Harris-Reuters
デービッド・キャメロンの経歴は、イギリスの上流社会が舞台のテレビドラマ『ダウントン・アビー〜貴族とメイドと相続人〜』の登場人物さながらだ。英国王ウィリアム4世の直系の子孫を父方の祖母に持ち、現女王エリザベス2世とは遠縁の間柄で、母方の祖父は准男爵。名門パブリックスクールのイートン・カレッジ出身で、オックスフォード大学を卒業した。
もっとも生身のキャメロンは、高慢ちきな貴族のイメージとは程遠い。感じが良くて気取りがなく、親しい人々からは「デーブ」と愛称で呼ばれ、スーツとネクタイが大嫌いだ。
上流階級の生まれという事実をしのばせる点はただ1つ。この人物は権力の重荷をやすやすと背負っているらしい。首相に就任してから2年近くがたつ今、キャメロンは就任前より若く見える。こんな首相はイギリスの歴史上、おそらく初めてだ。
事実、キャメロンはまだ45歳と若い。あのバラク・オバマ米大統領より5歳年下だ。とはいえ先週アメリカを公式訪問したキャメロンと並ぶオバマは、10歳は年上に見えた。権力によってオバマは老け込んでいるが、キャメロンは若返っている。
訪米の直前、ロンドンの首相官邸で話を聞いたときも、キャメロンはリラックスして健康そうだった。執務室に飾られた肖像画から見下ろす、かのウィンストン・チャーチルとは大違いだ。チャーチルは大食いで、酒をがぶ飲みして葉巻を吹かし、深夜まで仕事漬けだった。
「私はとても早寝で早起きだ」と、キャメロンは言う。「朝の5時45分には、キッチンのテーブルで(書類が入った)トレーに向かっている」。日曜日にはテニスを楽しみ、週1回はハイドパークでランニングをする。職務の重圧のせいで眠れないことはめったにない。
それでも正反対のタイプのチャーチルに、キャメロンが強い共感を覚えているのは明らかだ。「今でも(執務室の隣にある)閣議室を歩くときは興奮する。1940年当時、ここでイギリス政府がヒトラーを相手に孤軍奮闘していたのか、と」
昨年12月、債務危機のさなかのEU(欧州連合)は財政規律を強化する新条約を結ぶことで合意したが、イギリスは参加を拒否した。与党・保守党からは、チャーチルのように反骨精神を発揮したと高く評価された。この比較を、キャメロンは否定しようとしない。
国連決議なしでも介入を
チャーチルとは、ほかにも似ているところがある。保守党員として出発したチャーチルは1904年に自由党へ移籍し、25年に保守党へ復帰した。キャメロンも、本人の表現を借りれば「リベラルな保守派」だ。
キャメロンは外交政策を例えに、自らのリベラル保守主義をこう定義する。「保守派ならではの直感で、世界改革という壮大な計画には懐疑心や懸念を抱くが、この国の民主主義や権利、自由を広めたいと考えている点ではリベラルだ」
キャメロンが最もチャーチルに近いのは外交政策の分野。人権とイギリスの国益が危険にさらされる局面になると、軍事行動に積極的になる。昨年、弾圧が続くリビアへの武力介入を強く主張したのはオバマではなくキャメロンだった。