ステルス初飛行は中国からの挑戦状
ゲーツ米国防長官の北京滞在中に次世代戦闘機「J−20」の試験飛行を行った中国の真意を読み解く
お呼びでない? ゲーツは米中関係の改善と国防費の削減を目指して訪中したが(1月10日) Andy Wong-Pool-Reuters
どれほど控えめな言い方をしても、それは外交上、非常に気まずい出来事だった。
1月11日、中国人民解放軍は新型の次世代ステルス戦闘機「J−20(殲20)」の試験飛行を実施した。中国訪問中のロバート・ゲーツ米国防長官が北京の人民大会堂で、胡錦涛(フー・チンタオ)国家主席と会談するわずか数時間前のことだ。
今回のゲーツ訪中の狙いは、近年で最悪の状態にある中国軍との緊張関係を和らげること。中国側は受け入れに乗り気でなかったが、ゲーツは訪中実現を熱心に働きかけた。
米国防総省の財務事情も、ゲーツを訪中に駆り立てた要因の一つだ。訪中の数日前、ゲーツは国防総省の予算の大幅削減を発表した。巨額の財政赤字をかかえるアメリカにとって歳出削減は必至。中国との関係改善が進めば、戦闘機や空母のコストを削減できる。
ブロガーを招いて飛行映像をネットで公開
ゲーツ訪中の真っ最中に次世代戦闘機の試験飛行を行った中国の狙いは何だったのか。
最新鋭の戦闘機J−20はレーダーに探知されにくいステルス性能を備えており、早ければ2017年にも実戦配備する計画だという。中国は、アメリカが考える以上のスピードでアメリカ並みの軍事力を備えつつあることを誇示したかったのか。あるいは、米中の軍事レースを中止するつもりはないという中国軍上層部の意向の表れなのか──。
胡錦涛と会談したゲーツがJ−20問題を切りだしたところ、奇妙なことに胡は試験飛行の実施を把握していなかった様子で、後になって実施を認めたという。ただ、試験飛行のタイミングについては「今回の訪中には絶対に何の関係もない」と胡に言われたと、ゲーツは会見で明かした。
その言い分を信じるのかと質問されたゲーツは、「胡主席の言葉を信じる」と答えた。しかしメディアの関心は、中国政府による文民統制が崩れているのではないか、来年の主席交代を前に強硬派が権力を強めているのではないかという点に集中した。
興味深い疑問だ。しかし、それは問題の中核ではない。公的なメッセージが厳密に管理されている中国では、言葉そのものよりもその象徴的な意味のほうがずっと重要だ。中国共産党の指導層は一枚岩には程遠いが、戦争になれば軍部が戦闘機を飛ばすのだから、誰が試験飛行の日程を決めたかという点自体は大した問題ではない。
しかも、彼らはゲーツの中国滞在中に試験飛行を行っただけでなく、現地にブロガーを大勢招待していた。おかげで、J−20の映像が中国国内の多くのネットユーザーの目に触れることになった。