最新記事

大地震1年

ハイチ再建までの遠すぎる道のり

大地震から10カ月後の昨年11月、復興が一向に進まない構造に警鐘を鳴らした本誌の現地深層リポート

2011年1月13日(木)14時41分
ジェニーン・インターランディ

まるで震災直後 今だにテント生活を強いられている被災者たち(1月7日、首都ポルトープランス) Kena Betancur-Reuters


 <大地震発生当初の惨状については特集「ハイチ大地震」を、悲劇のマグニチュードを知るにはPicture Power「破壊され尽くした街 復興への遠い希望」をご覧ください>

 

 ハイチ復興の絶対的な前提条件は──首都ポルトープランスを埋め尽くす瓦礫の撤去だ。

 今年1月にハイチで起きた大地震では20万人以上が死亡し、100万人以上が家をなくしただけではない。多くの建物が倒壊し、約2000万立方メートルもの瓦礫の山が残った。

 住居を失った人は(しばらくの間なら)テントで暮らせるし、学校や病院は仮設施設で業務を続けられる。だが破壊された都市を再建するには、瓦礫を片付けなければどうにもならない。

 にもかかわらず、地震発生から10カ月が過ぎた今、除去された瓦礫はわずか5%。体積にして75万立方メートル強だ。

 つるはしや手押し車で除去作業をしている現実を考えれば、75万立方メートルという数字は大変なもの。とはいえ、これは当局が現時点までに除去済みになると見積もっていた量の10%に満たない。手付かずのまま放置されている倒壊家屋は25万軒、校舎は4000棟近くに上る。

 進まないのは、瓦礫の撤去だけではない。国際社会が支援を呼び掛け、ハイチの復興と真の国家再建のため2年間で総額87億5000万ドルの拠出を約束してから約半年。今や復興作業は全面的に停滞している。

 被災者向けの仮の住まいは整備されているが、大半はテントや防水シート製のもので、暴風雨から身を守ってはくれない。11月5日にハリケーン「トーマス」が襲来した際には、ポルトープランス近郊で洪水が発生し、死者も出た。仮設の学校もできているが、派遣された教師のほとんどは公用語のクレオール語やフランス語が話せない。

 一部の調査によれば、ハイチでは清潔な水へのアクセスが改善し、地震前を上回るレベルになっている。とはいえ、そうした水の大半はいまだに支援団体が運び込んでおり、持続可能性のある解決策とは言えない。その一方で、地方部ではコレラの感染が広がっている。

「つまりハイチの復興はうまくいっていない」と、米シンクタンクのブルッキングズ研究所で人道危機問題を担当するエリザベス・フェリス上級研究員は指摘する。「スタート地点からほんの少し踏み出しただけだ」

 背景には、複雑に絡み合う要因がある。第1に、国際社会が約束した支援の実現に時間がかかり過ぎている。アメリカは総額11億5000万ドルの支援策を表明したが、米議会がその大半を承認したのはつい最近。多くの国はいまだに具体的な支援を何もしていない。

 第2に、地震で国家公務員の2割弱が死亡し、連邦政府庁舎28棟のうち27棟が倒壊したため行政活動が滞っている。書類が散逸して土地の所有者をなかなか確認できないせいで、多くの地区では建物の取り壊しや建設がほぼ不可能になっている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

マレーシア野党連合、ヤシン元首相がトップ辞任へ

ビジネス

東京株式市場・大引け=続落、5万円台維持 年末株価

ビジネス

〔マクロスコープ〕迫るタイムリミット? ソフトバン

ワールド

中国軍が台湾周辺で実弾射撃訓練、封鎖想定 演習2日
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 6
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中