最新記事

大地震1年

ハイチ再建までの遠すぎる道のり

2011年1月13日(木)14時41分
ジェニーン・インターランディ

支援金の使い道に疑問符

 だが一番の問題点は、ハイチ政府も現地で活動する多くのNGO(非政府組織)やNPO(非営利組織)も、復興・再建活動をめぐる巨額のカネの使い方を知らないことだ。人道団体の赤十字は復興基金の分配があまりに困難なため、積極的に寄付を募ることをやめた。各国からの支援金を管理している世界銀行は、ハイチ政府への送金を意図的に遅らせている。

「NGOは、特に地震発生直後の段階で多くの立派な仕事をしてきた」と言うのは、災害復興作業などを手掛ける米企業アッシュブリットのランダル・パーキンズCEO。同社は先日、瓦礫除去を請け負う初の大型契約をハイチ政府と結んだ。

 パーキンズによれば、ハイチでいま求められているのは地震発生直後よりずっと大規模な事業だ。これをNGOに任せるのは、車のギアをセカンドに入れたまま時速100キロに加速しようとするようなものだという。

 一例が、洪水対策としてポルトープランスに張り巡らされた放水路の清掃計画だ。地震後に水路に詰まったごみや瓦礫を除去するため、これまでに3000万ドルが投じられてきた。

 だが問題は、プロジェクトを率いるNGOが上流部から作業を始めていること。「水路の放出口は高さ150センチほどのごみや瓦礫の山で塞がっている。それを取り除かない限り、どうにもならない」と、パーキンズは話す。放出口の修復には、NGOには手の届かない大型の装置が必要になるという。

 賢くないカネの使い方はまだある。瓦礫を砕いて建設資材の砂利にする携帯型砕岩機だ。ハイチ沿岸部の町プチゴアーブには、1台当たり約5万ドルのこの機械が10台送られたが、無用の長物だとの批判がある。

「こうした機械にはメンテナンスが欠かせない」と、ある開発担当者は言う。「部品が壊れた場合、代わりの部品をどこで手に入れればいいのか」

 ハイチで砂利がどこまで役に立つのかも疑問だという。「砕岩機に投じる分の予算で、現在の3〜5倍の量の瓦礫を除去できる企業もあるだろう」

 事業を実施するNPOのCHFインターナショナルは問題があることを認めつつも、成功が期待できると主張している。「今の計画は試験的なものであり、今後さらに充実させたい」と、CHFのハイチ開発プログラム責任者のリチャード・バーンズは言う。

 一方、アッシュブリットのような民間企業は、巨額の資金を投じてハイチに拠点を構え、もっぱら明らかに不足している重機の搬入に力を入れた。

「ハイチは長期的な開発を支える民間セクターからの投資を必要としている」と、ビル・クリントン元米大統領が運営する慈善団体「クリントン財団」のローラ・グラハムCOO(最高執行責任者)は言う。「国際援助はプロジェクト主体のケースが多過ぎる。ハイチの人々の長期的な能力開発ではなく、篤志家の決定に基づきがちだ」

 多国籍企業の説得に努めたクリントンの努力が実を結び始めていると、グラハムは言う。ボーイング社からの寄付金は教育制度の復興に充てられ、百貨店のメーシーズはハイチの工芸品を販売し、コカ・コーラはマンゴー農家を支援している。

 しかし他のセクターでは、新規参入組はなかなか受け入れられない。利益第一の企業はなおさらだ。アッシュブリットは大型の災害復興で10年を超える経験があるのに、契約にこぎ着けるまで何カ月も待たされた。

「『このNGOに2500万ドル渡して未経験の仕事をさせる前に、ほかの団体にも入札のチャンスを与えればいいじゃないか』と言いたい」とパーキンズ。「ここに悪人はいないが、誰かが口を挟むべきだ。『カネの使い道としてこれが本当にベストかどうか考えてみよう』と」

 ほかの国ではそれはたいてい中央政府の役目で、公共セクターの官僚がいくらでもいる。しかしハイチの公共セクターは、地震で大統領宮殿が崩れ落ちるはるか以前に崩壊していた。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米シカゴ連銀総裁、前倒しの過度の利下げに「不安」 

ワールド

IAEA、イランに濃縮ウラン巡る報告求める決議採択

ワールド

ゼレンスキー氏、米陸軍長官と和平案を協議 「共に取

ビジネス

12月FOMCでの利下げ見送り観測高まる、モルガン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 6
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 9
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中