最新記事

米外交

アフリカ少年兵をオバマが容認

少年兵を使うスーダンなど4カ国との軍事協力を解禁したのは、外交政策の由々しき転換ではないか

2010年10月29日(金)17時22分
ジョシュ・ロギン

無垢な魂 チャドの少年兵 Stephanie Hancock-Reuters

 アメリカのオバマ政権は10月25日、アフリカで少年兵を動員している国に対する制裁の撤回を表明した。少年兵を使い人権上問題があったとしても、そうした国々と新たな軍事協力を結ぶための措置だという。

「チャド、コンゴ(旧ザイール)、スーダン、イエメンの4カ国に対して(少年兵使用防止法を)適用しないことを、アメリカの国益のもとに決定した」と、バラク・オバマ大統領はヒラリー・クリントン国務長官への覚書に記した。

 少年兵使用防止法は、08年に当時のジョージ・W・ブッシュ大統領が署名した。18歳未満の少年兵を積極的に動員している国に対し、米軍による訓練や財政援助といった軍事関連支援を禁止する法律だ。米国務省が毎年発行する人身売買に関する報告書で、少年兵を動員していると特定された国に適用される。これで、この法律が適用される国は、ビルマ(ミャンマー)とソマリアだけになった。

 オバマが今回こうした決定に踏み切った理由は、覚書では「国益」としか記されていない。P・J・クラウリー米国務次官補(広報担当)は、少年兵を使っている国と協力したほうが無視するよりも問題の解決につながると、オバマ政権が判断したと語っている。

「アメリカはこれらの国で、地元政府と協力して少年兵の動員をやめさせたり、少年兵を除隊させるよう働きかけている」と、クラウリーは説明する。「こうした国々は正しい政策を掲げてはいるのだが、実行に移すのは難しいようだ。(少年兵使用防止法)の適用を撤回したことにより、アメリカは訓練プログラムを継続して、地元軍を国際基準にまで高めることができる」

アルカイダ対策にイエメンは不可欠

 残虐で非人道的な独裁体制と軍事協力を深めることが、彼らを改革する最善の策だというのか? 外交政策上、あまりに大きな方針転換と思われる。4カ国に対して、実際どのような軍事支援を提供し、それをどのように少年兵保護の取り組みに活用していくのか、まだ不透明なままだ。

「われわれは、これらの国々の政府と協力して少年兵の動員を減らす努力を続ける」と、ホワイトハウスのトミー・ビエトー副報道官は声明文で記した。「われわれは同時に、少年兵を使っている外国の軍隊がアメリカの対外援助の恩恵を受けないよう努めることも忘れない」

 他方、現在進行中の軍事支援が中断されることで生じる負の影響については、国務省の内部文書によって少しは詳細がみえてきた。例えばチャドでは「将来の国軍指導部を育成する上で極めて重要な」訓練プログラムが、法律を適用することによって中断されるという。

 同様に、コンゴとの軍事協力を中止すれば、反政府勢力と戦う「コンゴ国軍をアメリカが強化する機会を失うだろう」としている。スーダンについては、南部政府のスーダン人民解放軍(SPLA)に対する軍事訓練が中断され、来年1月の南部独立を問う住民投票を前に、SPLAの成長を妨げてしまうという。

 さらにイエメンとの協力関係が必要なのは、イエメン政府がアルカイダとの戦いを続ける上で重要なパートナーだからだとしている。「援助を中止すれば、イエメンが対テロ作戦を実行していく能力は著しく損なわれ、同国と中東地域の不安定化につながる」

 とはいえ、少年兵を「黙認」するとは、戦争犯罪に加担することになりはしないか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:米政界の私的チャット流出、トランプ氏の言

ワールド

再送-カナダはヘビー級国家、オンタリオ州首相 ブル

ワールド

北朝鮮、非核化は「夢物語」と反発 中韓首脳会談控え

ビジネス

焦点:米中貿易休戦、海外投資家の中国投資を促す効果
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 7
    必要な証拠の95%を確保していたのに...中国のスパイ…
  • 8
    海に響き渡る轟音...「5000頭のアレ」が一斉に大移動…
  • 9
    【ロシア】本当に「時代遅れの兵器」か?「冷戦の亡…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中