最新記事

テロ警報

ビンラディンがツイッターを使わない理由

2010年10月7日(木)18時08分
クリストファー・ディッキー(中東総局長)

残り少ない天才テロリスト

 確かにテロリストにしろハリケーンにしろ、どちらも理屈でどうこうきる相手ではない。だが国民が本当に教えて欲しいのは「嵐が本当に来るのかどうか」という1点だ。

 台風が来ると分かれば、家の窓に板を打ち付け、ミネラルウォーターを備蓄するといった対応ができる。だが欧米諸国の情報当局が恐れるように、ライフルを担いだいかれた連中がパリの地下鉄で無差別発砲を始めたら、私たちはどう対処すればいいのだろう?

 実際問題、テロの嵐が起きたらもはや手の打ちようはない。今回の注意喚起は表向き「警戒を怠るな」という大ざっぱなメッセージだ。それはニューヨークの地下鉄で見かける「何か不審なものを見かけたら通報してください」という掲示と変わらない。

 だが今後もテロの動向を正しく把握し、事件の発生を阻止していきたいと思うなら、人々は2つの重要な原則への理解を深めなければならない。

 1つ目は、凶悪なテロリストは世界にほんの少数しかおらず、その中でも頭の切れる者はさらに少ないということだ。テロ計画を妄想するだけなら誰にでもできる。なのに事件が起きないのは、悪夢を現実にするのは夢想するよりはるかに難しいからだ。

 それまでもさまざまなテロ事件に資金を出したり裏で糸を引いていたビンラディンは01年、大規模なテロ攻撃を計画する能力を持った悪の天才数人と手を組んだ。その1人、モハメド・アタは9月11日の同時多発テロで命を落とした。ハリド・シェイク・モハメドやアブド・アルラヒム・アル・ナシリは逃走の後に捉えられ、今はグアンタナモの米軍基地にいる。

 9・11テロ並みの大規模な事件が起きていない大きな理由は、アルカイダの人材の層がそれほど厚くないからだ。最近になって新たな黒幕たちが登場しつつあるが、彼らも執拗な追跡と爆撃の対象になっている。

憎しみがテロの連鎖を生む

 2つ目は、大陸全域を対象にした渡航情報を出すのはいいが、その主たる目的は、今後アルカイダに加わる人間の数を減らすことでなければならないということだ。だが外国人アレルギーが強まっている欧州やアメリカでは、イスラム教徒と見れば殺人予備軍だと勝手に思い込む傾向が強まっており、テロ志願者を減らすことの重要性は看過されている。

 このような世間の冷たい目に対する一部の人々、つまり過激なイスラム教徒の反応は予想がつくはずだ。自分たちの実像や行動とは無関係に過激なテロリスト扱いされた彼らが、じゃあその通りテロに走ってやろうかと考えてもおかしくない。

 パキスタンの部族地域で最近米軍が行った無人機爆撃で死亡したのは、欧州でテロを行うために訓練を受けていたらしいドイツ国籍の数人だ。ドイツ人だけではない。過去数年間、フランス、イギリスなどのヨーロッパ諸国の国籍を持つ人々(中東系や南アジア系の人もいれば、そうでない人もいる)が、パキスタンの部族地域へテロ訓練のために赴いたことが突き止められている。

 もしビンラディンがツイッターに登場したらどうなるか。すべてのイスラム教徒をかたくなに憎み恐れるヨーロッパ人やアメリカ人からの差別的な言動を逆手にとって、それこそ1時間おきにメッセージを出すだろう。

 政治家や評論家、扇動したいと望む者たちが、10億人を超えるイスラム教徒たちの希望や思いや信仰をたった数百人のイスラム過激派が犯す残忍な暴力行為と十把ひとからげに扱おうとするならば、それはテロリストと同列の非人間的な行為だ。

 これではテロリストがツイッターを使う必要などない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アジア諸国、トランプ氏の代替関税を注視 影響見極め

ワールド

中国、米最高裁関税判決の影響評価中 「一方的措置の

ワールド

メキシコ麻薬組織首領「エルメンチョ」死亡、軍の作戦

ワールド

新たな米関税計画、混乱回避へ熟慮と憲法準拠が必要=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 2
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面を突き破って侵入する力の正体が明らかに
  • 3
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官が掲げる「新しいスパイの戦い方」
  • 4
    揺れるシベリア...戦費の穴埋めは国民に? ロシア中…
  • 5
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 6
    「窓の外を見てください」パイロットも思わず呼びか…
  • 7
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 8
    ロシアに蔓延する「戦争疲れ」がプーチンの立場を揺…
  • 9
    「高市トレード」に「トランプ関税」......相場が荒…
  • 10
    ウクライナ戦争が180度変えた「軍事戦略」の在り方..…
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 3
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 4
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 5
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 6
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 7
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 8
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 9
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 10
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中