最新記事

アフガニスタン

米政府が育てた銃も撃てないど素人警察

2010年5月20日(木)16時08分
T・クリスチャン・ミラー(米調査報道機関プロパブリカ記者)、マーク・ホーゼンボール(ワシントン支局)、ロン・モロー(イスラマバード支局)

訓練は民間軍事会社任せ

 就任から1年余り、バラク・オバマ米大統領は状況の深刻さをあらためて思い知らされている。3月12日のアフガニスタン問題に関するブリーフィングに同席した高官によれば、オバマは11年7月に予定される米軍の撤退開始までにアフガニスタン警察の訓練が間に合うかと尋ねた。

「信じ難い話ですが、われわれはこの8年間、彼らを訓練してきませんでした」と、現地からテレビ会議システムで参加したコールドウェルは答えたという。「まったく訓練せず制服だけ支給してきたのです」

 大統領はあきれた様子だった。「8年間も? まさか」。室内は沈黙に包まれた。

 アフガニスタンにタリバン後の国民警察を創設する取り組みには、当初から非現実的な目標や監督不行き届き、ずさんな採用といった問題が付きまとった。パトロール要員は地元で採用され、武器を支給され、ろくに訓練も受けないまま任務に就く。必要な技術のほとんどは実地で身に付ける──もろもろの悪弊と一緒に。

 コールドウェルによれば、9万8000人の警官はいまだに正式な訓練を受けていない。これまでの訓練は、ほとんど民間の請負会社に委ねられていた。そのスタッフの多くはアメリカの元警官や保安官だ。彼ら自身が適切な指示をほとんど与えられておらず、彼らを監督する当局側は3000ドル未満の支出なら不問に付しがちで、不正の余地を残した。驚いたことに、訓練プログラムを長期にわたって管轄する機関も個人も皆無だったため、責任の所在がうやむやになった。

 アフガニスタンに新たな国民警察を創設する取り組みは、何かと後手に回りがちだった。03年、米国務省は迅速化を図るべく、コソボやハイチでの警官訓練の実績を持つ民間軍事会社ダインコープ(バージニア州)への委託を決定。同社はアフガニスタン各地に訓練所を開き始めた。05年に米国防総省も監督役に加わってからは、警察任務とタリバン対策のどちらに訓練の重点を置くかで両省がもめることもしばしばだった。

 国務省にもダインコープにも、この仕事は荷が重そうだ。大半の警官志願者は、学校に通ったことのない農村部の住民だ。薬物検査でざっと15%が麻薬(主にハッシシ)の陽性反応が出ている。車の運転はおろか、歯磨きの仕方も知らない人たちがほとんどで、9割近くは読み書きができない。

志願者は無条件で受け入れ

 ダインコープは05年に東部のジャララバード近郊に警察学校を開いた。開校後数カ月もしないうちに学校の下水溝が詰まり、調べてみると浄化槽に小石がたまっていた。アフガニスタン農村部の人たちは、トイレットペーパー代わりに手頃な小石を使うのだ。石の除去にショベルカーが出動する騒ぎとなり、ダインコープは2日間を割いて訓練生に手洗いやトイレの使い方を教えることにした。

 ANPは今も志願者を無条件で受け入れている。「志願者は教育もなく、将来に希望も持てない失業中の若者たちだ」と、カブールの警察訓練センターの副指揮官モハマド・ハシム・ババカルクヒルは話す。07年1月以降、殉職した警官は2000人以上。政府軍兵士の犠牲者の2倍以上に上る。米高官によれば、警官の殉職者の半数程度は銃の誤射と交通事故の犠牲者だという。

 国務省と国防総省が設定した訓練期間は8週間だったが、わずか8週間の訓練で有能な警官を育てられるはずがないと、ダインコープの元幹部は匿名を条件に語る。「まともな警官が育つわけがない。彼らもそれは分かっているし、こっちも分かっている。ただ頭数をそろえればいいんだ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

欧州委、ロシア産石油の上限価格厳守を米に要請

ワールド

イスラエル、交渉のための戦闘停止を拒否 レバノン政

ワールド

ロシアによるウクライナの子ども連れ去りは人道犯罪、

ワールド

米ロ・ウクライナの和平協議、トルコで来週にも開催か
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開された皇太子夫妻の写真が話題に
  • 4
    「一日中見てられる...」元プロゴルファー女性の「目…
  • 5
    40年以上ぶり...イスラエル戦闘機「F-35I」が、イラ…
  • 6
    人間ダンサーを連れて「圧巻のパフォーマンス」...こ…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    ホルムズ海峡封鎖、石油危機より怖い「肥料ショック」
  • 9
    身長や外見も審査され、軍隊並みの訓練を受ける...中…
  • 10
    イランがドバイ国際空港にドローン攻撃...爆発の瞬間…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 4
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 6
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 7
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 8
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示…
  • 9
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だっ…
  • 10
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中