フィギュアの採点改革に効果なし
ソルトレークシティー五輪での不正問題を教訓に新採点システムを採用したフィギュアスケートだが、審査員の母国びいきと裏取引はむしろ悪化している
ソルトレークシティー五輪の男子ショートプログラムの審判員。不正採点問題の発覚で急きょ審判員を変更して行われた Mike Segar-Reuters
近代オリンピックの創設者ピエール・ド・クーベルタンの言葉を借りれば、オリンピックの精神は「勝つことではなく、参加すること」にあり、「相手を打ち負かすことではなく、よき戦いをする」ことに重きを置く。
競技に対するその理想的な姿勢は、現代のオリンピック選手が表彰台を目指してなりふり構わず突き進む様子からは程遠い。選手たちはあらんかぎりの先端技術と新開発の薬剤を使って(合法だろうと違法だろうと)オリンピックの栄光を手にしようとする。
誰もが、ライバルを蹴落とすためなら嘘でもごまかしでも、盗みでもわいろでもかまわないという気分になる。40年代には、共産圏の重量挙げ選手団を強化しようとロシアの科学者が筋肉増強剤のアナボリックステロイドを開発した。08年の北京五輪では、金メダルを獲得した中国の女子体操選手が年齢制限に満たない13歳ではないかとの疑惑が持ち上がった。
バンクーバー五輪開幕前には、開催国のカナダが外国の選手に滑降コースでの練習をさせないのが問題になった。
02年のソルトレークシティーで発覚したのが、フィギュアスケートペアでの不正採点問題だ。審判員が得点を操作し、ロシアのペアを優勝させたとされる(大会中にそれが発覚して、銀メダルだったカナダのペアにも金メダルが与えられた)。
ソルトレークは氷山の一角
この五輪の直後にダートマス大学のエリック・ジツェウィッツ経済学准教授が発表した研究によれば、フィギュアの採点にはえこひいきと票取り引きがまかり通り、ソルトレークシティーの騒動は氷山の一角にすぎないという。
バンクーバー五輪の開催に合わせ、ジツェウィッツは追跡研究を発表。公正なフィギュア採点システムのために導入された改革に効果がないばかりか、問題を深刻化させている可能性があると指摘している。
ジツェウィッツの以前の研究では、審判員が自国の選手により高い得点をつける傾向が報告されている。00〜02年の61の国際試合(五輪を含む)の3000近い演技の採点を分析した結果、「母国偏重得点」は0.2点近くに上り(満点は6.0点)、順位を少なくとも1位分押し上げるには十分だったという。
またこの調査は、各国が裏取引を行っていたことも示唆している。ジツェウィッツは、審判員が「票ブロック」を形成し、互いの国の選手に高得点を与えていることを突き止めた。例えばロシアの審判員はフランスをひいきし、お返しにフランスの審判員はロシアに高い得点を与える。たとえ他国の選手たちにとって不利益になろうと、この2国が有利になる、というわけだ。
審判員の匿名採点を採用
ソルトレークシティー(とそれ以前の試合)での問題を受け、国際スケート連盟は採点方法を変更した。どの審判員がどの得点を付けたかは公表されず、さらに審判員のうちの一部の採点のみが使われる(バンクーバーでは各演技で9人の審判員が採点し、そのうち7人の得点を採用。どの審査員の得点が採用されたかは明らかにされない)。
各審判員の採点が公表されない匿名採点によって裏取引が抑制される、という考えに違和感を抱くかもしれない。
だが匿名採点では、裏取引で約束したとおりの得点を本当に付けてもらえたのか、確認することが困難だ。狙いはそこにある。個々の審判員と実際に採用された得点を結び付ける証拠はなく、9人の審判員は「自分の得点は採用されなかったようだ」と主張できる。パートナーが本当に高得点を付けてくれるのか確認できないのでは、裏取引もやりにくい。