最新記事

オリンピック

フィギュアの採点改革に効果なし

2010年2月17日(水)18時57分
レイ・フィスマン(コロンビア大学経営大学院教授)

母国ひいきが起こりにくいスキー競技

 ジツェウィッツが今回の研究で調査したのは、この匿名採点が自国選手びいきの採点防止に効果を上げたかどうか、という点だ。以前のように各審判員の採点を調べることはできなくなったが、審判団の中に選手の出身国の審判員が含まれる場合、その国の選手の平均得点が高くなるかどうかを分析した。

 その結果、自国びいきの傾向は悪化していた。匿名採点では裏取引の確実な効果は望めないが、得点の付け方をマスコミやファンに追求されることもない。公開採点の時代に比べ、審判員による自国選手のひいき得点は20%上昇していたという(このうちどの程度が選手の出身国の審判員による得点で、どの程度が裏取引した他国の審判員から与えられた得点なのかは特定できない)。

 悪名高き昔の採点システムに戻る以外に、国際スケート連盟が選ぶべき道は何だろう。ジツェウィッツは以前の研究で、スキージャンプの得点についても分析しているが、この競技では自国びいきはほぼ存在しなかったという。

 各国のスケート連盟が指名するフィギュアの審判員とは対照的に、スキージャンプの審判員は国際スキー連盟の小委員会が指名する。スケートの審判員は各国の利害を背負っているが、スキーの審判員に求められるのは誠実さだ。スキーと同様のシステムを採用すれば、フィギュアスケートの採点もましになるかもしれない。

 研究の最後にジツェウィッツは、こう提案している。国際スケート連盟は匿名採点を維持しつつ、採点の不正調査を行う者には記名データを公表すべきだ、と。

 フィギュアスケートの採点の不正を排除するのは難しい。国際連盟にそれが無理だとしても、経済学者にはできるかもしれない。


*Slate特約
http://www.slate.com/

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中