無限の闇にロマンを求めて
一部のSFファンから評価されたテレビシリーズ『バトルスター・ギャラクティカ』は、絶滅を免れた人類の逃亡劇という設定を使って文民政府と軍との緊張関係やクローン技術などの題材を掘り下げた。だが登場人物の人間関係にはそれほど引き付けるものがなく、セットもカナダの特撮スタジオの域を抜け出せなかった。
iPodに勝る喜びもある
『スター・ウォーズ』の前編3部作はとりわけ目に余る。面白い点といえば、監督・総指揮のジョージ・ルーカスが自分の作品のメッセージを完全に無視し、ストーリーや登場人物といった人間的な要素より魂のないテクノロジーを優先させて「暗黒面」に落ちていく姿を見ることくらいだろう。
例外はテレビシリーズ『ファイヤーフライ 宇宙大戦争』とその映画版『セレニティー』だ。『特攻野郎Aチーム』ばりの個性的なキャラクターが宇宙を舞台に繰り広げるウエスタン活劇といった趣で笑って楽しめた。つかの間でも宇宙の旅に思いをはせ、そのためにもっと税金を払ってもいいと思った最近のメジャーなSF作品はこれだけだ。
といっても、SF映画はあくまで目的のための手段の1つ。目的はさまざまな方法で実現できるし、実現しなければならない。アメリカ人は、科学そのものに胸を躍らせることや、創意にあふれた技術革新がどんどん小さくなるiPodにも勝る喜びを与えてくれることを思い出す必要がある。
その点、リチャード・ホームズは著書『驚異の時代(The Age of Wonder)』で科学に対するより健全なアプローチ法を示した。18世紀後半から19世紀前半のイギリスでは、科学者と芸術家が驚異的な絆を結んだ。ホームズが主要人物として挙げているのが、音楽家兼天文学者だったウィリアム・ハーシェルだ。彼は当時、世界最高の性能を誇る望遠鏡を製作。天王星を発見し、宇宙と時間にまつわる古い概念を覆した。
サミュエル・コールリッジやパーシー・シェリーなどロマン派の詩人は、想像の世界を押し広げるこうした発見に触発された。ジョン・キーツは1816年、ハーシェルの天文学上の偉業を偉大なる文学、そして太平洋の発見に結び付け、「新たな惑星が視界へ泳いできたときの/天空の観察者のごとき感動」とうたい上げた。
現代に必要なロマン主義
ロマン主義の時代にあって現代によみがえらせるべきもの──それはホームズの言葉を借りれば「往々にして孤独で、危険を伴う冒険」への憧憬だ。ロマン主義の英雄像は探検家のジェームズ・クックやタヒチへ航海した博物学者のジョゼフ・バンクスだけでなく、自分の記憶の世界に踏み込んでいく詩人や命懸けで自分を実験台にする化学者にも当てはまる。それは過去50年でいうなら、宇宙飛行士をおいてほかにいない。
『ロケット・メン』に描かれた月への有人飛行計画には、図らずもロマン主義の時代に重なる部分が多い。アポロ11号の乗組員マイケル・コリンズはニール・アームストロング船長とエドウィン・オルドリン飛行士が月面に人類初の足跡を残す間、司令船で軌道上を周回した。冒険家で作家のチャールズ・リンドバーグはミッションから帰還したコリンズに、「あなたはある意味、仲間よりはるかに深淵な体験をした」と語ったという。「人がかつて経験したことのない孤独を味わったのだから」
初期の宇宙飛行士たちが地球に帰還した後のケアに当たった看護師によれば、「(彼らは)まるで宇宙の謎に恋をしたようだった」という。ロマン主義の時代の科学者や詩人たちを思わせる言葉だ。