最新記事

イギリス

出口の見えない第2の「英国病」

2009年9月10日(木)16時27分
ストライカー・マグワイヤー(ロンドン支局長)

 一方、アフガニスタン駐留の兵士や士官の間では、装備不足に対する不満の声が上がっている。数週間前にリチャード・ダナット陸軍参謀総長がヘルマンド州の部隊を訪問した際、イギリス軍は自前のヘリを用意できず、米軍の兵員輸送ヘリ「ブラックホーク」に同乗させてもらう羽目になった。

 大国の究極のシンボルである核兵器の未来も不透明だ。現行の戦略核ミサイルシステム「トライデント(潜水艦発射弾道ミサイル)」は24年に更新を迎える。政府は200億ポンドを費やして次世代核兵器を開発する予定だ。

職を追われる優秀な外交官たち

 だが7月に英紙ガーディアンと調査会社ICMが共同で行った世論調査によれば、核兵器を放棄するべきだと考える英国民の割合は54%に上る。核放棄は現実的にはあり得ないにしても、次の政権はより安価な方法で核兵器を開発することを迫られるかもしれない。

 核保有国であることは国連安保理の常任理事国の座を確保し続ける手段の1つだった。イギリスの核抑止力が低下すれば、新興大国はこれまでに増して安保理での影響力拡大を要求する可能性がある。となると、代わりにイギリスやフランスが常任理事国の座を追われることになるだろう。

 イラク派兵によって大きな政治的代償を支払ったイギリスは、軍備につぎ込む資金に限界があることに気付いている。だからこそソフトパワーの強化に熱心だ。

 だがその中核を担うべき外務省は、政府自身の手によって骨抜きにされているようにみえる。イラクとアフガニスタンへの派兵がもたらした「戦略的な非一貫性」のせいで外務省は漂流していると、元駐米英大使のクリストファー・メイヤーは指摘する。

 外務省で進むリストラは、かつて全世界の憧れの的だったイギリスの優秀な外交官たちが「官僚間戦争」に敗れつつあることを示している。外務省は04年、世界中に約300ある在外公館のうち19を閉鎖。職員の数は04年以来、6000人から4000人に減っている。今年度は20億ポンドだった予算も、来年度は16億ポンドに削減される見込みだ。

 ロンドンの金融街シティーの栄光の日々も終わりを迎えている。シティーはイギリスがグローバル社会で持つ力の象徴だった。世界で最も歴史が古く、最も著名な多国籍企業のうち数社の資金調達に不可欠な役割を果たし、国際金融に対する影響力は地政学に対する英政府の影響力をしのいだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ステランティスCEO、米市場でハイブリッド車を最優

ビジネス

米ダラー・ゼネラル、通期の業績予想を上方修正

ビジネス

実質消費支出10月は3.0%減、6カ月ぶりマイナス

ワールド

マラリア死者、24年は増加 薬剤耐性や気候変動など
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 6
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 7
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 8
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 9
    【トランプ和平案】プーチンに「免罪符」、ウクライ…
  • 10
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中