出口の見えない第2の「英国病」
一方、アフガニスタン駐留の兵士や士官の間では、装備不足に対する不満の声が上がっている。数週間前にリチャード・ダナット陸軍参謀総長がヘルマンド州の部隊を訪問した際、イギリス軍は自前のヘリを用意できず、米軍の兵員輸送ヘリ「ブラックホーク」に同乗させてもらう羽目になった。
大国の究極のシンボルである核兵器の未来も不透明だ。現行の戦略核ミサイルシステム「トライデント(潜水艦発射弾道ミサイル)」は24年に更新を迎える。政府は200億ポンドを費やして次世代核兵器を開発する予定だ。
職を追われる優秀な外交官たち
だが7月に英紙ガーディアンと調査会社ICMが共同で行った世論調査によれば、核兵器を放棄するべきだと考える英国民の割合は54%に上る。核放棄は現実的にはあり得ないにしても、次の政権はより安価な方法で核兵器を開発することを迫られるかもしれない。
核保有国であることは国連安保理の常任理事国の座を確保し続ける手段の1つだった。イギリスの核抑止力が低下すれば、新興大国はこれまでに増して安保理での影響力拡大を要求する可能性がある。となると、代わりにイギリスやフランスが常任理事国の座を追われることになるだろう。
イラク派兵によって大きな政治的代償を支払ったイギリスは、軍備につぎ込む資金に限界があることに気付いている。だからこそソフトパワーの強化に熱心だ。
だがその中核を担うべき外務省は、政府自身の手によって骨抜きにされているようにみえる。イラクとアフガニスタンへの派兵がもたらした「戦略的な非一貫性」のせいで外務省は漂流していると、元駐米英大使のクリストファー・メイヤーは指摘する。
外務省で進むリストラは、かつて全世界の憧れの的だったイギリスの優秀な外交官たちが「官僚間戦争」に敗れつつあることを示している。外務省は04年、世界中に約300ある在外公館のうち19を閉鎖。職員の数は04年以来、6000人から4000人に減っている。今年度は20億ポンドだった予算も、来年度は16億ポンドに削減される見込みだ。
ロンドンの金融街シティーの栄光の日々も終わりを迎えている。シティーはイギリスがグローバル社会で持つ力の象徴だった。世界で最も歴史が古く、最も著名な多国籍企業のうち数社の資金調達に不可欠な役割を果たし、国際金融に対する影響力は地政学に対する英政府の影響力をしのいだ。