最新記事

世界経済

グラミン銀行は貧困を救えない

2009年8月26日(水)19時06分
ピーター・シェーファー

 だが市場経済をもとにした現実的なやり方で、貧困人口にも利用可能な潤沢な「資本プール」をつくる方法がある。それはマイクロモーゲージ、つまり担保付きの低利・長期・小口融資だ。

 これなら政府は最低限の法改正を行うだけでいい。そのうえで登記所を設置し、民間企業に登記申請処理の代行免許を与えて貧困層の財産登記を促す。こうすればマイクロモーゲージのプロセスは自立的となる。

 例えばメキシコに貧しい男がいるとする。彼は自分が住んでいる家の権利書を持っていないし、その家は住所登録もしていない。そこで彼は地元の銀行に行って、自分の家の登記申請をする。銀行にしてみればこの男は将来の潜在的な融資先。だから積極的に彼の家を調べて、物件の図面作成を手伝い、その情報を登記申請するだろう。すべては男が銀行から融資を受け、手数料を支払うことを期待してのことだ。

資本市場を利用した貧困解決を

 次に銀行は、国の正式な電子登記簿に登記するため男の情報を政府に提出する。申請が受理されれば、男は銀行から不動産に関する権利証書をもらえる。これで銀行は安心して男に融資することができる。男にしてみれば若干の手数料を払わなければならないが、それを差し引いた金額はすぐに借りることができる。

 デソトの試算では、メキシコの貧困人口の凍結資産は3000億ドルを超える。最新の登記所設置によってマイクロモーゲージを簡単に組めるようになれば、企業にも貧困層にも大きな経済的恩恵がもたらされるし、政府に大きなリスクやコストは生じない。

 ユヌスとデソトは、貧困層が貧困から脱却する方法について優れた見識を示した。ユヌスは彼らが融資を必要としていることを、デソトは彼らが経済に正式に参加する必要性を示した。その2人のアイデアを組み合わせることで、その狙いを実現するより現実的な方法を生み出すことができる。世界の貧困人口が正式な権利書を基に民間資本から資金調達できれば、9兆ドル問題は本当に解決するだろう。

(筆者は、貧困国で活動する不動産所有権サービス会社社長で『中南米は競争できるか』の共著者)

Reprinted with permission from www.ForeignPolicy.com, 26/08/2009. ©2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

日銀の利上げ判断は尊重するが、景気の先行きには注視

ワールド

米中、タイ・カンボジア停戦へ取り組み進める ASE

ビジネス

日銀総裁、中立金利の推計値下限まで「少し距離ある」

ビジネス

英小売売上高、11月は前月比0.1%減 予算案控え
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 6
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 7
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中