最新記事

米外交

米中G2戦略の落とし穴

経済優先で中国との関係強化を進めるアメリカ政府の「機能主義派」は、アジア諸国の平和と安定を危険にさらしかねない

2009年8月3日(月)17時22分
ジョン・リー(米ハドソン研究所客員研究員)

中国の思う壺 米中戦略・経済対話で共同文書を発表する戴秉国(タイ・ビンクオ)国務委員(左)とクリントン(7月28日、ワシントン) Jonathan Ernst-Reuters

 中国にどう対峙すべきか――この難題をめぐって、アメリカ政府内部は「機能主義派」と「戦略主義派」の二陣営に分裂している。先週ワシントンで開かれた「米中戦略・経済対話」をきっかけに、内部の議論だったこの両派の争いが表面に出てくるようになった。

 バラク・オバマ米大統領は中国に対し、米中両政府は「パートナー」であるべきだと語った。またヒラリー・クリントン国務長官とティモシー・ガイトナー財務長官もウォールストリート・ジャーナル紙に連名で寄稿し、「戦略的なレベルでの議論」を呼び掛けた。議論をリードしているのは間違いなく機能主義派だ。

 機能主義派は主にエコノミストか米中経済に関わる人たち。彼らはアメリカと中国の経済的な結び付きを強調し、それゆえ両国は戦略的パートナーであるべきだと主張する。ゼロ・サム的な競争関係ではなく、ウィン・ウィン的な協力関係こそが達成可能な目標である、と。

 2国間の障壁には対処方法があるし、たとえ関係に緊張が走ったとしても原因は誤解にすぎない。もちろん根深い隔たりもあるが、実利面の問題を解決すれば障害物は取り除かれていく。実際、これら障害物は存在する必要はなく、消えうせる運命にある。クリントンとガイトナーが中国の引用した中国のことわざ「呉越同舟」のように、「同じ舟に乗り合わせた者は、平和に川を渡らなければならない」と、機能主義派は考える。

 他方で「戦略主義派」はこれほど楽観的ではない。彼らに言わせれば、米中は戦略的競争関係――すなわち、後戻りできない現在進行形のライバル関係――にある。

 もちろん、米中両政府は摩擦を最小化していくために意思疎通と相互理解を進める必要がある。だがこのような協力には戦術的意味しかない。戦略主義派は、あらゆる米中関係には利益と価値観の根本的な衝突が内在しており、2国のどちらかが考え方を変えないかぎり(これは到底あり得ないが)、調整は可能でも解決は不可能だとみている。 

経済成長が民主化を促すという幻想

 世界的な経済不況の最中にあって中国が巨額の米国債を保有することを考えれば、機能主義派がリードしているのは当然だ。中国経済はうらやましいほどの速さで成長しており、世界(とアメリカ)を再び成長軌道に乗せてくれるのではないかと期待する人は多い。経済成長を促すことで、中国国内の政治改革を加速できるという見方もある。機能主義派は、中国が時間とともにアジアのリベラルな地域秩序の積極的参加者、もしくは擁護者にさえなり得ると信じている。

 だがこの考え方には論理的な飛躍がある。アメリカが危険な目にあう可能性も見過ごしている。中国が豊かになるということは、抑圧され続けている私営企業ではなく、国有企業経済がより強力になるということを意味する。

 上海株式市場と深セン株式市場に上場している約1500の企業のうち、正真正銘の私営企業は50に満たない。昨年11月に中国政府が発表した5860億ドルの景気刺激策の95%が国有企業に流れる。これでは「中国株式会社」がさらに強力になることはあっても、政治改革の後押しにはならない。中国共産党にカネを与え、中国経済・中国社会におけるその権力基盤をより強固にするだけだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米経済「想定より幾分堅調」の公算、雇用は弱含み=F

ワールド

ハマスは武装解除を、さもなくば武力行使も辞さず=ト

ビジネス

情報BOX:パウエルFRB議長の講演要旨

ワールド

米の対中関税11月1日発動、中国の行動次第=UST
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 5
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 6
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 7
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 8
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 9
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 10
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 10
    あなたは何型に当てはまる?「5つの睡眠タイプ」で記…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中