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妊娠22週で、胎児は思考力や感覚を持つ? 「妊娠中絶の罪」を科学から考える

ABORTION AND SCIENCE

2022年06月30日(木)18時24分
デービッド・フリードマン(科学ジャーナリスト)

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92年、ワシントンでは中絶の権利の擁護運動が MARK REINSTEINーCORBIS/GETTY IMAGES

ただし、そんなに早い時期に生まれて、実際に生き続けることができた赤ちゃんは世界に数えるほどしかいない。アメリカでは、妊娠22週で生まれた子の生存率は17%だと、アイオワ大学のエドワード・ベル教授(小児学・新生児学)は言う。だがこれは全米の病院の平均値だ。この中には、超早産児については特段の救命措置をしない病院も含まれる。ベルの調査によると、そういう病院は全米の約8割を占める。

なぜ救命措置をしないのか。それは病院の運営サイドと現場の医師の双方が、つらい結果になる可能性が高い措置に、とてつもない労力(と資金)を注いだり、家族に淡い期待を抱かせたりすることに前向きではないからだ。もちろん病院に最先端の設備がない可能性もある。

「妊娠22週で生まれた赤ちゃんに積極的な救命措置をしている病院に限定すると、生存率は約30%に上昇する」とベルは語る。「スウェーデンや日本では50%以上だ」

妊娠22週で生まれた子の生存率を高めるためには、かなりの資源を投じる必要がある。ロー対ウェード判決が下された1973年当時は、早産児が生存できる分かれ目は妊娠28週とされていた。

だが、90年代に医療技術に起きた2大ブレークスルーにより、それより4週間も早い妊娠24週で生まれた赤ちゃんでも、生存できる可能性が大きく高まった。

高まる妊娠24週で生まれた赤ちゃんの生存率

第1のブレークスルーは、早産のリスクが高い妊婦にステロイド剤を投与すると、胎児の臓器とりわけ肺の形成を早められるという発見。そして第2のブレークスルーは、肺の正常な機能に欠かせない肺サーファクタントと呼ばれる物質を補う薬剤を投与すると、超早産児が呼吸困難に陥るのをかなりの割合で防げるという発見だ(呼吸窮迫症候群は早産児の死因の大きな割合を占める)。

実際、妊娠24週で生まれた赤ちゃんの生存率は、この20年で上昇を続けており、今やアメリカの一部の病院では90%にも達する。23週でも50%が命を取り留めている。

妊娠24週よりもさらに早く生まれた赤ちゃんの生存率が高まったのは、90年代のような画期的な医療技術の発見のおかげではなく、現場で小さな改良を積み重ねた結果だ。

ヒントになったのは、90年代に一般医療で明らかになった術後感染症の防止法だ。魔法の特効薬がなくても、手術室の出入り口から患者の顔を遠ざけるように手術台を配置するとか、手術前に患者に抗生物質を投与するといった細かな工夫をすることで、術後感染症を大幅に減らせることが明らかになった。

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