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大坂なおみだって悩める弱い1人の若者、それを認めればいいだけの話だ

Athletes Are Not Commodities

2021年06月10日(木)06時11分
ピーター・テリー(豪サザンクイーンズランド大学心理学教授)

1回戦で勝った後にコートでインタビューに応じる大坂なおみ(5月30日) TIM CLAYTONーCORBIS/GETTY IMAGES

<試合後の会見を拒否して議論を呼び、メンタルな問題を告白した大坂なおみ。悩める若い選手を商品として消費するな>

テニス界のスター、大坂なおみの行動が、プロスポーツ選手のメンタルヘルスに注目を集めている。5月30日に全仏オープンが開幕する直前に大坂は、心の健康を大切にしたいから、試合後の記者会見は拒否すると宣言した。

1回戦で勝利した後も会見に出席せず、罰金を科され、大会主催者から脅しに近い警告も受けた。そして、大坂は大会を棄権した。

記者会見は契約の一部だ。テニス選手は何百万ドルという報酬と引き換えに、勝っても負けても試合後すぐに、メディアが求めれば会見に応じなければならない。

問題は、大坂のように、自他共に認める内向的で社会不安の強い人の場合だ。彼女は試合直後の会見が嫌でたまらないが、対応しなければならないことも理解している。

そして、彼女は世界に向けて助けを求める声を上げた。棄権を表明したメッセージで、2018年に全米オープンで優勝して以降、鬱の症状に苦しんでいることを明かしたのだ。大会中にヘッドホンを着けているのは、自分だけの小さなバブルに入って社会的な不安を和らげるためだという。

大坂に対するテニス界の当初の姿勢に、私は失望している。彼らは強硬だった。試合後の会見は契約で決まっている、やらないのなら、さらなる罰金や失格処分、将来的な出場停止のリスクを負うことになる、と。

泣き崩れる姿が見たい心理

私は04年に、女子テニス協会(WTA)が1995年に導入した年齢制限ルールを検証する専門家委員会に参加していた。

90年頃のテニス界では、13歳でプロに転向したジェニファー・カプリアティなど、15歳前後から活躍する一方で重圧に苦しむ選手が増えていた。79年に全米オープンを制したトレーシー・オースティンは16歳だった。

WTAは若い選手のメンタルヘルスの問題を深刻に受け止め、各国の専門家を集めて対策を検討した。そして、女子選手がプロの大会に出場できるのは14歳からとし、18歳まで年齢ごとに出場大会数を制限するルールを導入。実際に選手の永続的な利益につながることが証明されている。

一方で、大坂が求めているのは、選手の契約に含まれているインタビューのルールを見直してほしいという、ごくシンプルな話だ。

テニスの主要大会では、大敗を喫した選手が試合後30分足らずのうちに、メディアの前で話すように要求されることも少なくない。そこにはのぞき見の感覚がある。自分たちがヒーローともてはやしたアスリートが、泣き崩れる姿を見たい人もいるだろう。

甘やかされている、報酬をもらい過ぎだというイメージで語られるアスリートもいるが、今の大坂にそのような評価はふさわしくない。彼女は若く、内向的で、不安を抱えている1人の人間だ。

時間をかけて習得するのが難しい人も

スポーツ界のスターは超人などではなく、ほかの人と同じように疑問やメンタルヘルスの問題を抱えていることを、私たちは既に知っているはずだ。もっとも、大坂に対する一部の人々の反応を見ると、そうではないようだが。

セリーナ・ウィリアムズが今回の全仏の1回戦で勝利した後の記者会見で語ったように、有名になって注目されることを、誰もが楽しんでいるわけではない。「みんなが同じではない。私は神経が太いけれど、そうではない人もいるから......彼女(大坂)がやりたいようにやらせてあげるしかない」

メディアにうまく対応できない選手もいる。ボールのように言葉を巧みに打ち返せるとは限らない。以前に何回も答えた質問をされて、ひどくいら立つ選手もいる。試合への精神的なアプローチに踏み込むような質問に、自信を失いかけることもあるだろう。

生まれつき内向的で不安を感じやすい性格の人は、キャリアの早い段階で頂点に達すると、さらなる困難が待ち受けている。時間と経験を重ねて習得することができないからだ。

大坂の場合、鬱との闘いという大きな問題もある。鬱を患っているときに最も避けたいのは、スポットライトを浴びることだ。自分を無条件に愛してくれる人たちと一緒に過ごし、批判されることなく自分の気持ちを共有したい。専門家のサポートが必要な場合もある。

大坂の大き過ぎる代償

メディアは、決してそのような存在ではない。世間の注目を浴びながら深刻なメンタルヘルスの問題に対処しようとしても、ほぼ不可能なのだ。

現在の状況は、大坂にますます大きな負担を強いるだろう。彼女の不安をさらに増幅させかねない動きもいくつかある。例えば、東京オリンピックをめぐる彼女への期待の大きさを、私たちは想像できるだろうか。

若いアスリートのメンタルヘルスは、以前より話題になるようになった。スポーツ界のスターは特権的なエリートでもある。しかし、スポーツ界におけるメンタルヘルスの問題、特に不安障害の有病率は、社会全体とほぼ同じだ。スポーツ選手はキャリアを通じて、3~4人に1人が何らかのメンタルヘルスの問題を経験すると言われている。

若い弱者を商品のように扱ってはならない。黙ってルールに従え、自分の気持ちを表現するなと、強いるようなことをしてはならない。

大坂が望んでいるのは、テニス選手とメディアの付き合い方を少し変えようという対話だ。彼女が自ら声を上げたおかげで、テニス界は対話に応じるだろう。しかし、悲しいことに、彼女自身は莫大な代償を背負わされるかもしれない。

The Conversation

Peter Terry, Professor of Psychology, University of Southern Queensland

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

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