フランス人の自信の秘密は「性教育」にあった!? 実際に授業へ潜入してみた
性教育は1年に3回の必須科目
フランスの学校で性教育が始まったのは1973年に遡る。しかし当時は選択科目で、「避妊と性病」にフォーカスした内容だった。だが、2001年に教育法に導入された現在の性教育では、1年に3回の必須科目となった。8歳頃から身体の発達や子どもができる仕組みなどを学び始め、中学で避妊などを教える。
性教育は医師やプランニング・ファミリアル(家族計画センター)の職員が講師として学校を訪問し行われる。家族計画センターとは、避妊、DV、強制結婚、性的嫌がらせなどの相談を受けることのできる「女性にとって心強い」非営利組織だ。前述のクリスティーヌは日々、センターに訪れる女性に助言をし、パリ市内の学校を訪問して性の指導を行っている。
家族計画センター内で配布されている、10代の男女向けの性教育冊子。男性・女性向けコンドームの丁寧な装着方法や、身体の仕組み、性行為にまつわるコミュニケーション方法が分かりやすく書かれている。(photo: Ayana Nishikawa)
家庭内での性教育
学校が踏み込んだ内容を教える一方で、家庭では子どもへの「性」の説明に頭を抱える親も少なくない。そんな両親のために、家族カトリック協会(アソシアシオン・ファミーユ・カトリック)のサイトでは、7歳~11歳の子どもと両親に向け、性に関する説明の講座を短編ビデオにまとめている。例えば、「どうやって赤ちゃんはできるの?」という章がある。
子どもが両親に「どうしたら赤ちゃんはできるの?」と聞くと、両親は戸惑いながらも、「子供ができる瞬間は、心身ともに親密な状態で重なり合うこと」「パパのペニスがママのヴァギナに挿入する」とシンプルな言葉で明確に説明している。子どもが納得するまで真正面から向き合っている印象だ。
パリ近郊在住の記者の周囲の両親たちは、「学校と手を取り合って、子供に性教育をする」というスタンスが大半だった。つまり、学校が「性」の詳しい知識を教え、家庭が愛のお手本となる。
9歳の娘をもつ母親シャルロットは、「愛は、小さな頃から自然に家庭を通して学ぶもの」と語る。「今、娘は身体の変化について興味津々。今後セックスについては、愛する人と性行為する大切さを教えるつもり。娘のガイド役になりたいと思っているわ」
一方、17歳の娘を持つ父親ジェロームは、こう語る。
「僕が娘を2歳まで世話をしていたし、一緒に音楽演奏活動もしている仲だから、娘との間には深い絆と信頼関係がある。だから、彼女の私生活に踏み込んだりせず、距離を尊重したい。性教育は娘に居心地悪い思いをさせない程度に、『避妊』の大切さを伝えるだけだ。娘には、そんな『信頼関係』を愛する人と築いていってほしい」
思春期の子供が、学校で避妊と性病のみを学び、ポルノから性行為の仕方を学ぶ―――。それでは性のコミュニケーション力不足になってしまい、将来カップル間の関係がマンネリ化するとセックスレスに陥ってしまう可能性もある。
思春期の段階で性行為=「思いやり」と認識をし、心身ともにコミュニケーション力を磨く。それが、フランスでセックスレス率が低く、高齢になっても性行為を続けるカップルが比較的多い理由のひとつかもしれない。
今回の取材を通し、このような性教育は「人間力」を形成するうえで、必要不可欠な教育かもしれないと感じた。
【参考記事】「セックスしている子もいるけど私はしたくない」 アメリカの女子大生に浸透するパパ活
[執筆者]
西川彩奈
フランス在住ジャーナリスト。1988年、大阪生まれ。2014年よりフランスを拠点に、欧州社会のレポートやインタビュー記事の執筆活動に携わる。過去には、アラブ首長国連邦とイタリアに在住した経験があり、中東、欧州の各地を旅して現地社会への知見を深めることが趣味。女性のキャリアなどについて、女性誌『コスモポリタン』などに寄稿。パリ政治学院の生徒が運営する難民支援グループに所属し、ヨーロッパの難民問題に関する取材プロジェクトなども行う。日仏プレス協会(Association de Presse France-Japon)のメンバー。
Ayana.nishikawa@gmail.com
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