性器を握り、触る......「捕食者」と呼ばれる国連高官の手口と国連の闇
A CANCER IN THE U.N.’S CORRIDORS
国連の組織文化が一因に
セクハラ問題に詳しいプルナ・センは今年3月、期間限定でUNウィメンの報道官に任命された。それ以来、彼女は多くの職員から恐ろしい話をたくさん聞いて悲しい思いをしたという。
被害者の大半は女性職員だ。個別の案件については言及を避けつつも、センは明言した。「国連の外で起きている性的搾取と内部で起きていることが無関係だとは言えない。どちらにも共通した組織風土の問題がある」
職員の信頼を取り戻すために、国連は内部調査で被害者が被害を報告できるように守秘義務の範囲を見直し、採用と捜査のプロセスに透明性と説明責任を確保し、手続きを明確にする必要があると彼女は考える。
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人事の年功序列や上下関係に重きを置く国連組織の在り方は、セクハラ問題を悪化させる。調査の担当者が高官その他の被疑者と密接な関係にある場合は、特にそうだ。
「被害者のためにきちんと法的手続きを取れる組織であるかどうかは大いに疑問だ」と、センは言う。「指揮命令系統が確立され、上下関係のはっきりした組織では、セクハラの問題が起きても明るみに出ず、うやむやにされがちなのは周知の事実。上の者には逆らえないという文化規範のせいだ」
前出のギブソンによれば、国連は「階級組織で男性優位」の風土であるために権力者による不正行為が起きやすい。「全体の組織風土の問題だ。エリート主義で、組織を守るという口実で秘密主義を貫く傾向がある。それによって恥ずべき行いが起こりやすくなっている」
昨年12月16日、UNウィメンは名前を明らかにしないまま、「ある職員」による性的非行について内部調査を実施中だと発表した。サンゲラとギブソンが本誌に語ったところでは、内部調査は発表の約半年前に始まり、監査・調査室が、被害を受けたと主張する1人目の聞き取り調査を行った。半年たってから公表したのは、UNウィメンが「事態の重大さを認識したから」だという。
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国連の下位レベルの職員やインターン(訓練生)の多くは16〜23歳で、職業経験もほとんどない。現在はNGOの役員をしているある女性が、かつてUNウィメンの前身だった組織で働いた経験について話してくれた。
「想像してみてほしい。あなたはたった18歳で、世界でも恵まれない地域の出身だったら......。初めてニューヨークに来て、憧れの国連本部の廊下を歩いている。自分は世界を変えるんだと意気込んでいる。それなのに、上司があなたを助けてやると言いながら、性的な不品行を仕掛けてきたら......。あなたに何ができる? 被害を報告できる仕組みがなかったら、誰に話すことができる?」
模範であるべき国連で起きたセクハラ疑惑。写真は国連総会の会議場 PHIL ROEDERーMOMENT/GETTY IMAGES
若い人たちが被害を訴えることができないのは、彼らが野心は大きくても世間知らずで、怖がっているからだ。「ここで働けなくなったら、自分の使命を果たせなくなると考えてしまう」と、彼女は言う。「自分のキャリアが駄目になってしまうとも思う」
UNウィメンでのカルカラの上司は、11年3月に当時の潘バン・キ ムン基文事務総長によって事務総長補に起用されたラクシュミ・プリ。ちなみにプリの夫のハルディープ・シン・プリはインド政府高官で、ナレンドラ・モディ首相の上級顧問でもある。
そんなプリ夫妻と強いつながりを持つカルカラは、最も批判や調査を免れることができる立場だった。今回の内部調査の事情に通じた4人の情報源が本誌に語ったところでは、被害に遭ったとされる人たちはみな報復を恐れている。プリは今年1月に国連の職を退いたが、UNウィメンの広報担当者によると、彼女の退職は今回の調査とは関係なく、インド政界における夫の仕事を支援するためだという。
カルカラは昨年12月以降、ソーシャルメディアへの投稿を控えている。彼はこれまで国際機関で若者の問題を扱う要職を歴任してきた。国連人間居住計画の子供と若者の問題の専門アドバイザー、ユニセフや、民間援助団体セーブ・ザ・チルドレンの顧問などだ。
14年にはスリランカ政府から、世界青年会議のグローバルアドバイザーに任命されている。17年8月には、国連が既に彼に対する内部調査を始めていた時期だったにもかかわらず、ニューヨークの国連本部で開かれた青年会議に出席し、基調演説を行っている。