最新記事

教育

米保守派が歴史教科書の「自虐史観」修正に圧力

テロリストを育成する反米教育だとして、高校の歴史の指導要領が書き直しに

2015年7月30日(木)18時00分
ゾーイ・シュランガー

アメリカは特別だ 指導要領が反米的だとして抗議する人々(昨年)。改訂版では「アメリカ例外主義」の1章が加わった Rick Wilking--Reuters

 アメリカの高校で使用される歴史学習の指導要領が物議をかもしている。

 問題になっているのは、AP(アドバンスト・プレースメント)という進学コースの科目の1つ、「アメリカ合衆国の歴史」の指導要領だ。昨年刊行された新指導要領はアメリカの歴史の負の側面を強調し過ぎているとして、保守派が大々的に抗議キャンペーンを展開。急遽、改訂版が出されることになった。

 AP試験を実施する大学入試委員会によると、改訂版は「テーマ学習の目安」を50項目から19項目に削るなど、大幅に簡素化された内容になっている。「奴隷制」への言及が減り、「アメリカ例外主義」を取り上げたセクションが新たに付け加えられた。「アメリカ例外主義」とは、アメリカは自由と平等を実現するために建国された特別な国だという概念で、保守派の精神的な拠り所になっている。

 改訂版はまた、ベンジャミン・フランクリン、トーマス・ジェファーソン、アレクサンダー・ハミルトン、ジョン・アダムズらに言及している。建国の父たちの輝かしい業績を取り上げず、否定的な側面ばかり強調する歴史教育はけしからんと、保守派はそう息巻いていた。

まるでISISメンバー育成教育

 指導要領はあまりに反米的で、これに基づく歴史教育を受ける若者は「ISISに入る準備をしているようなものだ」と、保守派の市民運動ティーパーティーの支持を受けて大統領選の共和党予備選に出馬したベン・カーソンは批判した。

 改訂版を作成した委員会のメンバーでノースカロライナ州の高校教師テッド・ディクソンは、奴隷制という言葉を数カ所削ったのは、重複があったからだと説明する。「奴隷制というテーマそのものの比重は変わっていない」

 大学入試委員会は10年余りの検討を重ねた上で、昨年の歴史の指導要領を作成した。しかし、昨年の刊行直後に、南部のオクラホマ、ジョージア、テキサス州の州議会の保守派が、この指導要領が採用されるなら、APコースの歴史科目を廃止するという法案を提出。コロラド州のジェファーソン郡学区の教育委員会は、歴史教材はすべて「愛国心」と「権威に対する尊敬の念」を養うものであるべきで、「公共の秩序を乱すことを奨励または容認すべきではない」として、指導要領を精査する方針を打ち出した。これに抗議する高校生数百人が授業をボイコットしたため、教育委員会はこの方針を撤回した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

S&P、アダニ・グループ3社の見通し引き下げ 米で

ワールド

焦点:ウクライナ巡り市民が告発し合うロシア、「密告

ワールド

台湾総統、太平洋3カ国訪問へ 米立ち寄り先の詳細は

ワールド

IAEA理事会、イランに協力改善求める決議採択
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中