最新記事

食品業界

内緒だけど、健康食です

健康のために加工食品の塩分を減らしていることを企業が秘密にしたがるアメリカ的事情とは?

2010年5月25日(火)13時35分
キャサリン・スキップ(マイアミ支局)、アリアン・カンポフロレス(マイアミ支局長)

見えない健康食 こんなハンバーガーも、実は健康にいい材料を使っているかも Joshua Lott-Reuters

 塩分がアメリカ人を殺そうとしている。塩分の取り過ぎは高血圧症や心筋梗塞などの病気につながるが、摂取量はこの20年間で実に50%増えた。

 ある研究によれば、1日の塩分摂取量を3グラム減らせば(現在のアメリカ人の平均は10グラム)、心臓の慢性疾患や脳卒中の件数を3分の2に減らせる。医療費も年240億ドル減額できるという。

 既に塩分との戦いは始まっている。先頭に立つのは、健康にうるさいニューヨーク州だ。ある州議会議員は、レストランでの塩の使用を禁止しようとした。ニューヨーク市保健局は心筋梗塞などの増加を抑えるために、加工食品の塩分を減らすキャンペーンを始めた。

 さらにニューヨーク市は、全国の自治体や健康関連団体をまとめ上げて「全国減塩運動」を組織し、加工食品61種とレストランの料理25種に減塩の数値目標を設定した。例えばハンバーガーの塩分は、5年以内に18%減らすという。

「健康=まずい」の誤解

 減塩キャンペーンは、食品会社を巻き込まなくては意味がない。ニューヨーク市保健局によれば、消費者が摂取する塩分の80%は加工食品に含まれている。

 米疾病対策センター(CDC)のトーマス・フリーデン所長(昨年までニューヨーク市保健局長)は昨年12月、CDCと食品業界が進めるスナック類の減塩に触れてこう語った。「50年後の人が今の食べ物を食べたら、塩水のような味だと感じるはずだ」。食品の塩分を少しずつ減らしていけば、消費者はほとんど気付かないだろうと、フリーデンは言う。

 だが彼によれば、食品会社の多くは協力的ではあるものの、減塩の努力を秘密にしようとする。おかしな話に聞こえるが、問題は消費者のほうにありそうだ。健康にいいものを食べたいと口では言いながら、本音は違うらしい。

 こう見えて、アメリカ人は味にうるさい。国際食品情報会議財団(IFIC)の調査によれば、アメリカ人が食品を選ぶときに最も重視する要素は味だ(87%)。次が価格で、健康は3番目だった。

 「『このハンバーガーは健康にいい』などと言えば、まずいのだろうと思われる」と、企業コンサルティング会社のCEO(最高経営責任者)で、食品会社の幹部でもあったハンク・カルデロは言う。

 この見方は、ファストフード以外でも変わらない。コーネル大学のチームが行った研究によれば、栄養補助食品に「大豆タンパク質10グラム含有」と表示して食べさせたところ、「タンパク質10グラム含有」と書いた同じ食品を食べたグループに比べて、「後味が悪い」と答えた人が多かった。

 健康にいい原材料に変えたことを隠しておけば、売り上げも減らない。グリルドチキンのチェーン店エル・ポヨ・ロコは、脂の多い黒豆料理の原材料を変更したことを公にしなかった。

やっぱり客は気付かない

 05年のハリケーン・カトリーナで豆の産地が被害を受けたとき、同社はこの人気メニューの販売を停止した。新しい仕入れ先を見つけ、1年後に脂の少ない低カロリーのメニューに変えて販売を再開した。同社は何も言わず、客も気付かなかった。

 「何を言えばよかったのか? 『脂肪の入っていない新しいメニューです』などと言えば、『まずくなりました』と言っているようなものだ」と、CEOのスティーブ・カーリーは言う。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イスラエル、イラン核施設への限定的攻撃をなお検討=

ワールド

米最高裁、ベネズエラ移民の強制送還に一時停止を命令

ビジネス

アングル:保護政策で生産力と競争力低下、ブラジル自

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 4
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 5
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 6
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 7
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 8
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 9
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 10
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 8
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中