内緒だけど、健康食です
健康のために加工食品の塩分を減らしていることを企業が秘密にしたがるアメリカ的事情とは?
見えない健康食 こんなハンバーガーも、実は健康にいい材料を使っているかも Joshua Lott-Reuters
塩分がアメリカ人を殺そうとしている。塩分の取り過ぎは高血圧症や心筋梗塞などの病気につながるが、摂取量はこの20年間で実に50%増えた。
ある研究によれば、1日の塩分摂取量を3グラム減らせば(現在のアメリカ人の平均は10グラム)、心臓の慢性疾患や脳卒中の件数を3分の2に減らせる。医療費も年240億ドル減額できるという。
既に塩分との戦いは始まっている。先頭に立つのは、健康にうるさいニューヨーク州だ。ある州議会議員は、レストランでの塩の使用を禁止しようとした。ニューヨーク市保健局は心筋梗塞などの増加を抑えるために、加工食品の塩分を減らすキャンペーンを始めた。
さらにニューヨーク市は、全国の自治体や健康関連団体をまとめ上げて「全国減塩運動」を組織し、加工食品61種とレストランの料理25種に減塩の数値目標を設定した。例えばハンバーガーの塩分は、5年以内に18%減らすという。
「健康=まずい」の誤解
減塩キャンペーンは、食品会社を巻き込まなくては意味がない。ニューヨーク市保健局によれば、消費者が摂取する塩分の80%は加工食品に含まれている。
米疾病対策センター(CDC)のトーマス・フリーデン所長(昨年までニューヨーク市保健局長)は昨年12月、CDCと食品業界が進めるスナック類の減塩に触れてこう語った。「50年後の人が今の食べ物を食べたら、塩水のような味だと感じるはずだ」。食品の塩分を少しずつ減らしていけば、消費者はほとんど気付かないだろうと、フリーデンは言う。
だが彼によれば、食品会社の多くは協力的ではあるものの、減塩の努力を秘密にしようとする。おかしな話に聞こえるが、問題は消費者のほうにありそうだ。健康にいいものを食べたいと口では言いながら、本音は違うらしい。
こう見えて、アメリカ人は味にうるさい。国際食品情報会議財団(IFIC)の調査によれば、アメリカ人が食品を選ぶときに最も重視する要素は味だ(87%)。次が価格で、健康は3番目だった。
「『このハンバーガーは健康にいい』などと言えば、まずいのだろうと思われる」と、企業コンサルティング会社のCEO(最高経営責任者)で、食品会社の幹部でもあったハンク・カルデロは言う。
この見方は、ファストフード以外でも変わらない。コーネル大学のチームが行った研究によれば、栄養補助食品に「大豆タンパク質10グラム含有」と表示して食べさせたところ、「タンパク質10グラム含有」と書いた同じ食品を食べたグループに比べて、「後味が悪い」と答えた人が多かった。
健康にいい原材料に変えたことを隠しておけば、売り上げも減らない。グリルドチキンのチェーン店エル・ポヨ・ロコは、脂の多い黒豆料理の原材料を変更したことを公にしなかった。
やっぱり客は気付かない
05年のハリケーン・カトリーナで豆の産地が被害を受けたとき、同社はこの人気メニューの販売を停止した。新しい仕入れ先を見つけ、1年後に脂の少ない低カロリーのメニューに変えて販売を再開した。同社は何も言わず、客も気付かなかった。
「何を言えばよかったのか? 『脂肪の入っていない新しいメニューです』などと言えば、『まずくなりました』と言っているようなものだ」と、CEOのスティーブ・カーリーは言う。