最新記事

医療改革

皆保険恐怖症アメリカ、最新の大嘘4つ

脳にチップを埋め込まれる、ジャングルジムに税金が使われる──オバマ肝いりの医療保険改革法成立を受けて、流言飛語がますますひどくなっている

2010年4月1日(木)18時24分
ティモシー・ノア

まだ言うか いつまでも反対するのは勝手だが、人を惑わすウソはたいがいにして欲しい(3月21日に米連邦議会前で行われた反対派のデモ) Jason Reed-Reuters

 アメリカの医療保険改革法が3月末にようやく成立した。だが世の中には、この改革法について誤った情報を流す輩がたくさんいる。例えば去年は、政府が費用対効果で治療の可否を決める「デス・パネル(死の審査会)」が作られるというウソが広がって一部でパニックを引き起こした。驚いたことに、法案が成立しても流言飛語は止まらないどころかますますひどくなっている。「死の審査会」もびっくりの強烈な風説をいくつか挙げれば......。

脳にマイクロチップ?

 ニュースサイトのチャタヌーガン・ドット・コムに、ある読者がこう書き込んだ。「改革法案の1000ページの規定により、全米医療機器登録制度が作られる」。その読者は法案の1000〜1008ページにあるという「生命維持のためのクラス2の埋め込み型機器」という文言を「患者の身元情報や医療情報を発信するための埋め込み型の無線通信機器」を指していると解説した。

 一個人の妄想だろうって? グーグルで「医療保険制度改革 マイクロチップ」で検索してみるといい。何万もの検索結果が出てくる。

「医療改革法=陰謀」説を主張する人々は、もっともらしさを演出するために「法案の○○ページ」だとか「△△にある条文」と問題の箇所をピンポイントで指す。

 だが「生命維持のためのクラス2の埋め込み型機器」なんて文言は、このたび可決された改革法案と修正法案のどこを探しても出てこない。実はこの表現が登場するのは下院の改革法案のもっと以前のバージョンなのだ。

 いずれにしろ、脳味噌にマイクロチップを埋め込むことを求めたものではない。手術で体内に埋め込んだ医療機器の医学的効果をきちんと調べ、万一の場合にはリコール情報をユーザーに届けるため、そうした機器に関するデータを集めるように厚生省に求めた規定なのだ。

 アメリカ中でこうした医療機器は、患者の同意のもとに脳や心臓や膝といった場所に埋め込まれている。政府が患者の居場所を追跡するためではない。患者の身体をきちんと機能させ、生命の維持を図るためだ。

 政府が四六時中、国民の居場所を把握しようとしているのではないかと不安に思うなら、改革法について文句を言うより、携帯電話を捨てるほうが気が利いている。

ジャングルジムに70億ドル?

 ジェーソン・マテーラは、ガチガチの右派新聞「ヒューマン・イベンツ」の編集長に指名されたばかりの26歳。3月10日に民主党のアル・フランケン上院議員にビデオで突撃取材を行い、こんな質問を投げかけた。

「改革法案のどの部分がコスト削減につながるのか? ジャングルジムのために70億ドルを拠出する部分か、それとも従業員に授乳のための休憩時間を与えることを雇用主に命じた部分なのか?」

 フランケンはマテーラに、法案のどこにジャングルジムが出てくるのかと尋ねた。マッテラは答えた。「1184ページ目に」

 マテーラが挙げたのは、連邦政府の「地域社会改革交付金」について書かれたページだ。これは予防医学の推進を目的として州や地方自治体、民間の非営利団体(NPO)に交付されるものだ。

 交付には疾病対策センター(CDC)の承認が必要で、「健康的な食品の選択肢や身体を動かす活動の機会を増やし、健康的な生活習慣や情緒面での健康増進、病気の予防に関する教育、慢性疾患予防のための活動を奨励するといった、より健康的な学校の環境整備」をはじめとする7つの目標(それ以外でもいいが)のために使われることになるはずだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中