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1日のうち「立つ」と「座る」どっちが多いと健康的? 最新研究で最適なバランスが判明

How much time should you spend sitting versus standing? New research reveals the perfect mix for optimal health

2024年6月1日(土)09時30分
クリスチャン・ブラッケンリッジ(豪スウィンバーン工科大学博士研究員)
立つと座る

Andrey_Popov-shutterstock

<1日は24時間しかない。運動が健康によいと言っても、何をどのぐらいの時間行えばいいのか。成人2000人以上を調査したオーストラリアの研究で分かった>

座っているより立っているほうがよい、運動は全体的な健康に効果的、質の高い睡眠は不可欠――健康とは何かについて、人々は直感的に理解している。

しかし、夜に運動すると睡眠によくないとか、体の回復のために座って休む時間が必要になってしまうといった場合、健康を最適化するために24時間のバランスをどう取ればよいのかという重大な疑問が生じるだろう。

私たちの研究は、心臓病、脳卒中、糖尿病の危険因子について、こうした疑問に答えようとした。その結果分かったのは、最適な睡眠時間は8.3時間であり、軽い活動と、中程度から激しい活動は、それぞれ2.2時間確保するのがベストだというものだ。


■24時間の最適な時間の使い方

心臓病リスク及び血糖値に対して、「寝る」「座る」「立つ」「軽い活動」「中程度から激しい活動」という5つの一般的な活動の最適なバランスを示したモデル

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※それぞれの活動の最適範囲:「座る」5時間40分~7時間10分、「立つ」4時間10分~6時間10分、「軽い活動」2時間~2時間20分、「中程度から激しい活動」1時間40分~2時間20分、「寝る」7時間30分~9時間
Chart: The Conversation Source: Brakenridge, C.J., Koster, A., de Galan, B.E. et al.

適切なバランスを見つける

現在の健康ガイドラインでは、週に2.5~5時間、中程度から激しい強度の身体活動を行うという計画を守ることが推奨されている。

しかし今、週単位ではなく、一日の過ごし方が、健康に重大な影響を与える可能性があることを示唆する証拠が増えてきている。これは中程度から激しい強度の活動に加え、座っている時間、立っている時間、軽い身体活動 (家やオフィスの周りを歩くなど) をしている時間、睡眠に費やす時間を意味する。

私たちの研究では、7日間、身体行動を記録できるセンサーを体に装着した2000人以上の成人を調査した。これにより、彼らが平均的な24時間をどのように過ごしたかが分かった。

研究の開始時に、調査参加者は腹囲、血糖値、インスリン感受性を測定している。体に取り付けたセンサーと評価データを照合して分析し、心臓病と脳卒中のリスクスコアといった健康リスクマーカーに対してテストし、モデルを作成した。

このモデルを使用して、24時間の何千もの順列を調べ、心臓病リスク及び血糖値との関連性が最も低いと推定される順列を見つけた。これにより、座る、立つ、軽い活動、中程度から激しい活動の、最適な組み合わせが多く生まれた。

腹囲、血糖値、インスリン感受性、心臓病と脳卒中のリスクスコアを調べたところ、最適な時間帯が異なることが分かった。これらの時間帯が相互に重なる箇所が、心臓病と糖尿病のリスクにとって最適な時間帯であると考えられた。

あなたが思う以上に、あなたは身体活動をしている

軽い強度の身体活動は、毎分100歩未満のウォーキングと定義。例えばウォータークーラーまで歩く、トイレまで歩く、友達と気軽に散歩するといった活動で、これらが血糖コントロール、特に2型糖尿病の人の血糖コントロールと強い関連性があることが分かった。

このような軽い強度の身体活動は、目的を持って軽く運動するというより、1日を通して断続的に増えていくような類の運動だ。

私たちの実験が示したのは、座っている時間を定期的に中断して軽い身体活動(1時間ごとに3~5分の散歩など)を行うと、新陳代謝を改善できるということ。特に昼食後は効果が大きい。

中程度から激しい身体活動については、1日2時間以上とかなり長時間に思えるかもしれないが、私たちはこれを1分間に100歩以上の速度と定義した。これは早歩きに相当するものだ。

ただし、これらの結果は予備的研究によるものであることには注意してもらいたい。これは心臓病と糖尿病のリスクと「最適な」24時間に関する最初の研究であり、より長期にわたる研究を行っていく必要がある。

データも横断的だ。これは、推定される「使われた時間」が疾患の危険因子と相関していることを意味する。つまり、時間の使い方が危険因子に影響を与えるのか、それとも危険因子が時間の使い方に影響を与えるのかは分からない。

成人の身体活動ガイドラインはアップデートが必要

オーストラリアの身体活動ガイドラインは現在、運動の強度と時間のみを推奨しており、それに代わる24 時間の動きを採り入れた新しいガイドラインを作成中だ。間もなくオーストラリア人は、新しいガイドラインを使用して自分の時間の使い方を調べ、どこを改善できるか理解できるようになる。

とはいえ、研究やガイドラインの「推奨」とは北極星のようなもの。健康を改善するためにどこへ向かうべきかを教えてくれるに過ぎない。

原則としては、こうなる。できるだけ座っている時間を減らし、立っている時間、軽い強度の活動、中程度から激しい強度の活動を増やすこと。毎晩7.5~9時間の健康的な睡眠を取れるよう努力すること。

良い変化も起こるだろう。スクリーンタイムを減らし、車よりも運動になるような通勤方法を選び、夜はテレビを見る代わりに早く寝ることを優先する、といった具合に。

最後になったが、私たちの研究による「推奨」はあくまで体を動かすことができる成人向けであることは承知いただきたい。そして最適なバランスをどう考えるにせよ、体を動かすことは楽しいものなのだ。

The Conversation

Christian Brakenridge, Postdoctoral research fellow at Swinburne University Centre for Urban Transitions, Swinburne University of Technology

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.


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