「組み立て15分、コストはたった1万円」 能登半島地震で大活躍する災害対応の即席住宅開発への軌跡

2024年3月11日(月)17時50分
川内イオ(フリーライター) *PRESIDENT Onlineからの転載

子どもたちと建てたインスタントハウス

いくつかの避難所を巡ったなかで、最も過酷な環境だったのが輪島中学校だった。

img_f47f1ea1aa7658613d9ac3058f1ef786470181.jpg

能登半島地震の後、避難所として使用されている輪島中学校 写真提供:北川教授

特にアリーナは2階のガラスが割れ、凍えるような冷たい風がアリーナのなかに吹き込み、冷蔵庫のようだった。

避難所の職員にインスタントハウスの話をすると、「ありがたい」ということだったので、着替えやオムツ交換、授乳スペースとして屋内用インスタントハウスを建てることにした。

1月4日、ダンボールをアリーナに運び入れて作業を始めると、物珍しそうに被災者が近寄ってきた。

最初の1棟に屋根を上げた瞬間、アリーナ全体から少しずつ拍手が起きた。「これなに?」と聞く子どもたちに、「みんなのお家だよ」と答える。

「一緒に作っていい?」
「いいよ」

その場にいた数人の子どもたちが、手伝ってくれた。2棟目が完成した瞬間、3歳の女の子が大きな声で「お家ができた!」と叫んだ。

img_8870b67b5a41f5b6ff1c2ffcd7ac7a9c445101.jpg

避難所の子どもたちと一緒にインスタントハウスを組み立てた 写真提供:北川教授

隣りにいた母親から、今回の地震で自宅が全壊してしまったと話を聞いた北川さんは、アリーナの外に出た。そこで堪えきれず、涙を流した。

その後、子どもたちは屋内用インスタントハウスに絵を描いて遊ぶようになった。

そこには、「ちょっとせまいけど いえかんせえ」と書かれていた。

この絵と文字は、3歳の女の子と小学校1年生のお兄ちゃんが描いたものだ。取材の日、その子たちのお母さんに話を聞いた。

「初めて見るデザインで最初はなんなのかなと思ったのですけど、メルヘンチックな感じですごくいいと思います。子どもたちも一緒に作ったりして、楽しそうでした。かわいい家が完成した後も出たり入ったりして遊んでいましたよ」

その後、校舎の1階と2階、屋内型広場などに計10棟を建てた北川さんは、翌日、名古屋に戻った。

その際、ダンボール業者やテント屋、断熱材メーカー、運送会社と協議し、屋内用インスタントハウス110棟分の資材を調達。屋外用インスタントハウス3棟の資材と合わせて、再び輪島中学校に向かった――。

「家に困っている人を助けたい」と走り続けてきた

この記事を書いている1月22日時点で、北川さんが拠点をおく輪島中学校ではアリーナに屋内用インスタントハウス250棟を建てる準備が進められており、2棟の人道支援用は、被災直後から狭い職員室での雑魚寝を強いられていた教員が寝泊まりするようになった。

今現在も支援の輪は広がっており、インスタントハウスの実費調達のために開かれた名古屋工業大学基金に寄せられた寄付は1650万円。屋内用インスタントハウス440棟分と人道支援用インスタントハウス13棟分が、主に輪島市各町の避難所に届けられる準備が整った(1月22日時点)。

冒頭に記したように、すでに被災地全域から屋内用インスタントハウス2000棟、屋外用インスタントハウス100棟の要望が届いており、これから能登半島にたくさんのインスタントハウスが建てられる。

それはまさに、東日本大震災以来、「家に困っている人を助けたい」と走り続けてきた男が思い描いてきた光景だ。

しかし、まだ足を止めるつもりはない。北川さんの頭のなかには、さらに進化した人道支援用インスタントハウスの構想がある。世の中には、廃棄される農作物も多い。それらを使って、100%生分解性の断熱材とテントシートを作ろうとしているのだ。

インタビュー
現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ「日本のお笑い」に挑むのか?
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、次期FRB議長にウォーシュ氏かハセット

ビジネス

アングル:トランプ関税が生んだ新潮流、中国企業がベ

ワールド

アングル:米国などからトップ研究者誘致へ、カナダが

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、方向感欠く取引 来週の日銀
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナの選択肢は「一つ」
  • 4
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 5
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 9
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 7
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中