「組み立て15分、コストはたった1万円」 能登半島地震で大活躍する災害対応の即席住宅開発への軌跡
被災した子供たちを見て発した妻の一言
同年8月下旬、北川さんは妻と一緒にインドネシアのチカランにいた。
トルコでの反響から、海外でもニーズがあると確信。
いざというときに自分が現場に行かなくても住民が自力でインスタントハウスを建てられるように、ノウハウの伝え方や住民による作業の検証に行ったのだ。
その際に燃焼実験や耐久性の実験も行い、想像以上に構造物としての強度があることがわかり、新たな手応えを得たその帰り道。
名古屋へ向かう飛行機のなかで夫婦の話題にのぼったのは、現地で目にした、手を差し出し、お金や食べ物を求めてくる子どもたちだった。
同じような貧しい子どもたちの姿は、発展途上国だけでなく先進国でも見てきた。
建築学科の後輩で、北川さんの試行錯誤を一番そばで見守ってきた妻から「本当は、ああいう子たちのためにインスタントハウスを使いたいんでしょう」と聞かれた北川さんは、「そうなんだよね」と頷いた。
そして、「じゃあ、やってみようか」とふたりで話し合ってから間もない翌月8日、モロッコ中部の山間部で大地震が起きる。
調べてみると、モロッコでは仮設住宅1棟が100万円弱することがわかった。トルコの時と同じ思いはしたくない。北川さんは思い切って10分の1の価格を目指した。
市販しているインスタントハウスは10年程度の利用を想定し、その間、不具合が起きないようハイスペックになっているが、仮設住宅はそこまで必要ない。
テントシートの素材を変え、発泡ウレタンも高度な吹付技術が必要で価格も高いもの(独立気泡の発泡ウレタン)から、海外でも簡単に入手できるもっと安いもの(連続気泡の発泡ウレタン)に変えた。
これで、施工1時間、原価15万円の人道支援用インスタントハウスが完成。
大学で実験して十分な強度があるとわかると、北川さんはモロッコにいる知り合いに連絡。
「夜はとても寒い。お願いしたい」という声を聞き、スーツケースにテントシートだけを入れて現地に飛んだ。
現地で連続気泡の発泡ウレタンを調達し、ひとりで施工したところ、想定通り1時間で完成した。
その様子がモロッコのテレビ、ラジオで放送されたこともあり、後日、モロッコ政府から接触があった。現在、インスタントハウスの導入について、政府関係者とやり取りを重ねているそうだ。