「組み立て15分、コストはたった1万円」 能登半島地震で大活躍する災害対応の即席住宅開発への軌跡

2024年3月11日(月)17時50分
川内イオ(フリーライター) *PRESIDENT Onlineからの転載

被災した子供たちを見て発した妻の一言

同年8月下旬、北川さんは妻と一緒にインドネシアのチカランにいた。

トルコでの反響から、海外でもニーズがあると確信。

いざというときに自分が現場に行かなくても住民が自力でインスタントハウスを建てられるように、ノウハウの伝え方や住民による作業の検証に行ったのだ。

その際に燃焼実験や耐久性の実験も行い、想像以上に構造物としての強度があることがわかり、新たな手応えを得たその帰り道。

名古屋へ向かう飛行機のなかで夫婦の話題にのぼったのは、現地で目にした、手を差し出し、お金や食べ物を求めてくる子どもたちだった。

同じような貧しい子どもたちの姿は、発展途上国だけでなく先進国でも見てきた。

建築学科の後輩で、北川さんの試行錯誤を一番そばで見守ってきた妻から「本当は、ああいう子たちのためにインスタントハウスを使いたいんでしょう」と聞かれた北川さんは、「そうなんだよね」と頷いた。

そして、「じゃあ、やってみようか」とふたりで話し合ってから間もない翌月8日、モロッコ中部の山間部で大地震が起きる。

調べてみると、モロッコでは仮設住宅1棟が100万円弱することがわかった。トルコの時と同じ思いはしたくない。北川さんは思い切って10分の1の価格を目指した。

市販しているインスタントハウスは10年程度の利用を想定し、その間、不具合が起きないようハイスペックになっているが、仮設住宅はそこまで必要ない。

テントシートの素材を変え、発泡ウレタンも高度な吹付技術が必要で価格も高いもの(独立気泡の発泡ウレタン)から、海外でも簡単に入手できるもっと安いもの(連続気泡の発泡ウレタン)に変えた。

これで、施工1時間、原価15万円の人道支援用インスタントハウスが完成。

大学で実験して十分な強度があるとわかると、北川さんはモロッコにいる知り合いに連絡。

「夜はとても寒い。お願いしたい」という声を聞き、スーツケースにテントシートだけを入れて現地に飛んだ。

現地で連続気泡の発泡ウレタンを調達し、ひとりで施工したところ、想定通り1時間で完成した。

その様子がモロッコのテレビ、ラジオで放送されたこともあり、後日、モロッコ政府から接触があった。現在、インスタントハウスの導入について、政府関係者とやり取りを重ねているそうだ。

企業経営
ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パートナーコ創設者が見出した「真の成功」の法則
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

小泉防衛相、中国軍のレーダー照射を説明 豪国防相「

ワールド

米安保戦略、ロシアを「直接的な脅威」とせず クレム

ワールド

中国海軍、日本の主張は「事実と矛盾」 レーダー照射

ワールド

豪国防相と東シナ海や南シナ海について深刻な懸念共有
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 6
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 7
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 8
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 9
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中