知られざる「人が亡くなる直前のプロセス」を、3000人以上を看取ったホスピス医が教える
■4. 四肢のチアノーゼ
亡くなる5〜6時間くらい前には手足が紫色になったり、冷たくなったりします。これは心機能をはじめ全身の循環動態が低下するために起こります。これを四肢のチアノーゼといいます。この時期になると、尿もほとんど出ない状態となります。四肢のチアノーゼは80%の患者さんに起こります。
■5. 橈骨動脈の蝕知不可
橈骨動脈は手首にあり、触ると脈動が感じられます。橈骨動脈を触診し、拍動がまったくなくなったら、亡くなる2〜3時間前だと思ってください。これはほぼすべての人に起こります。そして、呼吸停止、心拍停止、瞳孔散大・対光反射の消失という、死の3兆候を示したとき、その方に死が訪れます。
それでも、本当に苦しまずに死ねるのか
看取り間近のご家族から、私がよく受ける質問のひとつに「最期は苦しくないのでしょうか」というものがあります。
遺族に行った最近の調査では、66%の遺族が死前喘鳴を見るのが苦しかったと答えています。64%が溺れているようだった、59%が窒息するのではないかと心配だったと言っています。ずっと見ていると息が詰まりそうだったと答えた遺族も57%いました。看取り間近のご家族は、患者さんのそばにいて、つらく感じていることが見て取れます。
患者さんの最期は、ほとんどの場合、意識が混濁し会話ができなくなるので、自分からは苦しいか苦しくないかの意思表示ができなくなります。そのため、苦痛があるかないかは、表情などで客観的に判断するしかありません。
私はホスピス医になる前、ホスピスの実習に行ったとき、「死前喘鳴が起こっているときには患者さんはほとんど昏睡状態ですから、見た目ほどは苦しくありません。ですから、ご家族には苦しくないと説明したらいいですよ」と教わりました。
その後、ホスピスで多くの患者さんを看取らせていただいた際、ご家族には、死前喘鳴は苦しくありませんと説明してきました。実際に、死前喘鳴を起こしている患者さんを、私はたくさん看取ってきましたが、たしかに、見た目より苦しくはないと感じました。
しかし、ただ苦しくはありませんよ、と説明するだけではご家族の不安は取れません。私は、死前喘鳴を起こしている患者さんを前にしているご家族の不安を受け取り、その不安に対処することが重要だと考えています。
私が行っているケアの一例を示します。
病棟で終末期後期の患者さんの病室を訪問したときのことです。ご本人はほとんど意識もなく、死前喘鳴の症状を呈していました。ちょうどご家族もおられました。すると、ご家族が急に私に訴えてきました。
「父が苦しそうです。喉がゴロゴロと鳴っています。主治医の先生に伝えたんですけど、苦しくはないですよ、と言うだけでした。何とかしてください。父が苦しそうなのが不安です」と言いました。
私は「そうですか、患者さんが苦しそうに見えますよね。不安に感じるのも無理はないですよね。具体的にどのあたりが苦しそうに見えるのか教えてくれませんか?」と聞きました。
ご家族は「このままゴロゴロがひどくなって、喉に詰まってしまって窒息してしまうのではないかと心配です」と答えました。
私は、「それは心配ですね。それでは、一緒に見てみましょう」と言い、患者さんをご家族の前で診察しました。