最新記事

医療

知られざる「人が亡くなる直前のプロセス」を、3000人以上を看取ったホスピス医が教える

2022年12月22日(木)15時10分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

■4. 四肢のチアノーゼ

亡くなる5〜6時間くらい前には手足が紫色になったり、冷たくなったりします。これは心機能をはじめ全身の循環動態が低下するために起こります。これを四肢のチアノーゼといいます。この時期になると、尿もほとんど出ない状態となります。四肢のチアノーゼは80%の患者さんに起こります。

■5. 橈骨動脈の蝕知不可

橈骨動脈は手首にあり、触ると脈動が感じられます。橈骨動脈を触診し、拍動がまったくなくなったら、亡くなる2〜3時間前だと思ってください。これはほぼすべての人に起こります。そして、呼吸停止、心拍停止、瞳孔散大・対光反射の消失という、死の3兆候を示したとき、その方に死が訪れます。

それでも、本当に苦しまずに死ねるのか

看取り間近のご家族から、私がよく受ける質問のひとつに「最期は苦しくないのでしょうか」というものがあります。

遺族に行った最近の調査では、66%の遺族が死前喘鳴を見るのが苦しかったと答えています。64%が溺れているようだった、59%が窒息するのではないかと心配だったと言っています。ずっと見ていると息が詰まりそうだったと答えた遺族も57%いました。看取り間近のご家族は、患者さんのそばにいて、つらく感じていることが見て取れます。

患者さんの最期は、ほとんどの場合、意識が混濁し会話ができなくなるので、自分からは苦しいか苦しくないかの意思表示ができなくなります。そのため、苦痛があるかないかは、表情などで客観的に判断するしかありません。

私はホスピス医になる前、ホスピスの実習に行ったとき、「死前喘鳴が起こっているときには患者さんはほとんど昏睡状態ですから、見た目ほどは苦しくありません。ですから、ご家族には苦しくないと説明したらいいですよ」と教わりました。

その後、ホスピスで多くの患者さんを看取らせていただいた際、ご家族には、死前喘鳴は苦しくありませんと説明してきました。実際に、死前喘鳴を起こしている患者さんを、私はたくさん看取ってきましたが、たしかに、見た目より苦しくはないと感じました。

しかし、ただ苦しくはありませんよ、と説明するだけではご家族の不安は取れません。私は、死前喘鳴を起こしている患者さんを前にしているご家族の不安を受け取り、その不安に対処することが重要だと考えています。

私が行っているケアの一例を示します。

病棟で終末期後期の患者さんの病室を訪問したときのことです。ご本人はほとんど意識もなく、死前喘鳴の症状を呈していました。ちょうどご家族もおられました。すると、ご家族が急に私に訴えてきました。

「父が苦しそうです。喉がゴロゴロと鳴っています。主治医の先生に伝えたんですけど、苦しくはないですよ、と言うだけでした。何とかしてください。父が苦しそうなのが不安です」と言いました。

私は「そうですか、患者さんが苦しそうに見えますよね。不安に感じるのも無理はないですよね。具体的にどのあたりが苦しそうに見えるのか教えてくれませんか?」と聞きました。

ご家族は「このままゴロゴロがひどくなって、喉に詰まってしまって窒息してしまうのではないかと心配です」と答えました。

私は、「それは心配ですね。それでは、一緒に見てみましょう」と言い、患者さんをご家族の前で診察しました。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:米中間選挙の鍵握る若年男性層、物価高・移

ビジネス

国内企業物価、2月は前年比2.0%上昇 前月比0.

ビジネス

日経平均は続伸で寄り付く、5万5000円を回復 半

ワールド

イスラエル軍、ベイルート近郊を空爆 地上部隊も南部
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開された皇太子夫妻の写真が話題に
  • 4
    「一日中見てられる...」元プロゴルファー女性の「目…
  • 5
    40年以上ぶり...イスラエル戦闘機「F-35I」が、イラ…
  • 6
    人間ダンサーを連れて「圧巻のパフォーマンス」...こ…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    ホルムズ海峡封鎖、石油危機より怖い「肥料ショック」
  • 9
    身長や外見も審査され、軍隊並みの訓練を受ける...中…
  • 10
    イランがドバイ国際空港にドローン攻撃...爆発の瞬間…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 4
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 6
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 7
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 8
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示…
  • 9
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だっ…
  • 10
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中