最新記事

医療

知られざる「人が亡くなる直前のプロセス」を、3000人以上を看取ったホスピス医が教える

2022年12月22日(木)15時10分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

私たちはこれらのことを、亡くなる直前の患者さんに現れる5兆候と呼んでいます。

具体的には、「意識混濁」「死前喘鳴」「下顎呼吸」「四肢のチアノーゼ」「橈骨動脈の蝕知不可」の5つです。

これらの兆候が現れてくると、私は「もうそろそろだな」と考え、ご家族に「いのちが今日、明日の可能性があります。できるだけそばにいてあげてください」とお話ししています。

最期まで患者さんの耳は聞こえているので、患者さんが好きな音楽をかけたり、家族がわいわい話したり、患者さんに声をかけたりすることはとてもいいことだと思います。

多くの患者さんから、亡くなるまで普段どおりに過ごしていたいとよく聞きます。

家族にしてほしいことは、患者さんのそばにいて普通に過ごすことです。普通でいるということは本当に幸せなことなのです。

大切な方の死はとてもつらいことですが、この5兆候について事前に知っておくことで、看取りにきっと役立つと思います。

それでは、最期の5兆候について具体的にお話ししていきます。

■1. 意識混濁

亡くなる1〜2週間前から、眠っている時間が徐々に増えてきます。亡くなる数日前になると、ほとんど眠った状態になることが増え、呼びかけにも反応しないことも多くなります。これを意識混濁といいます。

しかしそばに親しい人、大事な人がいることは感じられます。また、耳の機能は最期まで残ります。最近、人の声に亡くなる直前の人の脳波が反応した、という報告がありました。最期まで大事な人の声は聞こえます。私はご家族に「そばにいて、手を握って話しかけてあげてください。最期まで、あなた方の声は聞こえていますから」とお伝えします。

■2. 死前喘鳴

うとうとと眠ることが多くなってくると、唾液や痰がうまく飲み込めなくなるので、呼吸とともにゴロゴロという音が出て、あえいでいるように見えます。これを死前喘鳴といいます。

深く眠っているときに起こるので、ご家族が思うほど患者さんは苦痛を感じていません。表情などからも、つらさがあるかどうかは判断できます。もしご心配なら、主治医・看護師に尋ねて確認してもらうとよいと思います。

死前喘鳴が患者さんを苦しめているのではないかと思い、吸引を希望するご家族もいらっしゃいますが、無理に吸引することで、逆に患者さんを苦しめてしまいます。

死前喘鳴は患者さんの35%程度に起こり、亡くなる2日前くらいから出現するといわれています。私は看病にあたる方に、「無理に吸引はせず、口のなかに溜まったものをガーゼなどで拭ってあげてください」とお伝えしています。

■3. 下顎呼吸

さらに時間が経過すると、呼吸が荒くなり、顎を上下に大きく揺らすような呼吸になってきます。下顎呼吸という状態です。呼吸しているように見えても、胸は動いておらず有効な呼吸ではありません。

この状態になると、意識はほとんどありません。しかし、患者さんは苦痛は感じていませんので、慌てずに見守ることが肝要です。下顎呼吸は95%の患者さんにみられ、亡くなる7〜8時間前からみられることが多いです。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中