最新記事

医療

「がんになって初めて、こんなに幸せ」 50代看護師は病を得て人生を切り開いた

2022年12月23日(金)19時55分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

病気には、生活習慣病のように予防できたり、努力によって改善できるものがあります。感染症のように、以前なら多くの人が亡くなった病気でも、いまでは特効薬ができて、克服できた病気もあります。がんも昔に比べると、完治できたり、長期に延命できるようになってきました。

しかし、人はそれを乗り越えても、また病気になりいずれ死を迎えなければいけないのです。この事実を考えると、病気は理不尽なものに思えるかもしれません。

私は、「病気は人生の一部である」と考えています。病気はほとんどの人が経験する自然な現象だからです。それならば、病気になることは自分にとってどんな意味があるのかと、あえて問うてみてもいいかもしれません。

ナチスの強制収容所を生き延びた心理学者のビクトール・E・フランクルは「人間は人生から問われている存在である。人間は生きる意味を求めて人生に問いを発するのではなく、人生からの問いに答えなくてはいけない」と言いました(『夜と霧』より)。

これを人生のなかに起こる、病気というものに当てはめて考えてみるとどうなるでしょう。「なぜ私は病気でこんなに苦しまないといけないのか」と考えるのではなく、「この苦しい病気はなぜ私に与えられたのか」と発想することになります。

私は緩和ケア医になって患者さんからたくさんの大事なことを教わりました。そのひとつが、「病気は私たちのこころを成長させる大きな機会」だということです。

がんのような命を脅かす病気になったとき、私たちは誰しもが自分の死を意識せずにはいられません。死の恐怖に怯え、もがき、苦しむこともあるでしょう。そのなかで、いままで生きてきた自分の人生を振り返ります。そして、人生の真の意味を見出す人もいるのです。

病むことで学べる、成長できる

50代の女性で、すい臓がんの患者さんのお話をします。

彼女は現役の看護師でした。がんと診断されたときすでに手術ができない状態で、彼女の勤めていた病院での抗がん剤治療となりました。しかし、抗がん剤の副作用が強く出て、多臓器障害となり、入院での治療が必要に。ようやく体調が戻ってきた頃、彼女から私に話したいことがあると言ってこられました。彼女は最初、手術ができないと聞き、自分はなんて不幸なのかと嘆いたそうです。

「仕事もまだまだこれからだと思っていたし、病気になったら家族に迷惑をかけてしまう。神様なんていない、と思いました。今回の入院治療は本当につらかった。意識ははっきりしなくなったし、痛みで寝られない日々が続きました。死を覚悟しました。でも、命を助けてもらいました。私は、自分が患者になって気づいたことがたくさんあります。

まず何の薬かわからないと不安で、説明を受けるまでは薬を怖くて飲めませんでした。ああ患者さんはこんな不安を抱えていたんだ。自分はその気持ちに寄り添えていなかったと、本当に身に染みました。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イランの革命防衛隊、バーレーンの米アマゾン施設攻撃

ワールド

イラン、ホルムズ海峡の航行監視でオマーンと協定文書

ワールド

トランプ氏、司法長官の解任協議 エプスタイン疑惑対

ビジネス

米2月の貿易赤字、4.9%増加 輸出過去最高も輸入
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イラン恐怖」の正体
  • 2
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受給年齢」
  • 3
    破産申請の理由の4割以上が「関税コスト」...トランプ関税が米国民に与える「破産」の苦しみ
  • 4
    人口減の自治体を救う「小さな浄水場」──誰もが常に…
  • 5
    先進国が出生数の減少を嘆く必要はない? 「経済的…
  • 6
    日本の男女の賃金格差は世界でも突出して大きい
  • 7
    「一般市民に敵意なし」...イラン大統領が米国民宛て…
  • 8
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 9
    自国の国旗損壊を罪に問うことの深刻さを考える
  • 10
    200年前の沈没記録が裏付けられた...捕鯨船を海の藻…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 6
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 7
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 8
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 9
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 10
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中