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なぜ今、日本でSDGsへの関心が高まっているのか

2021年8月25日(水)12時45分
森田優介(本誌記者)

未来をつくっていくのは常識を覆すアイデアだから

――教育で言えば、上田さんのThink the Earthは、2018年に『未来を変える目標 SDGsアイデアブック』(監修・蟹江憲史〔慶應義塾大学大学院教授〕、マンガ・ロビン西、紀伊國屋書店)を出されているが、あの本のターゲットは子供ですね。

学習指導要領が(2017年に)改訂され、それが実施される前に、先生たちが先行して勉強し、授業ができるようにしようと本を作った。

学校の先生が本を使ってSDGsの授業をしてくれたら、それを他の先生が真似できるように共有したり、あるいは、パーム油の(原料となるアブラヤシ農園が生態系破壊の原因になっている)課題があるボルネオ島に先生と子供たちと一緒に行くスタディツアーを、コロナ前には毎年実施したりして、教育分野でお手伝いをしてきた。

企業や行政、クリエイターなどとさまざまなプロジェクトを遂行してきたが、近年は教育関係者と仕事をすることが多い。

文科省が「社会に開かれた教育課程」を目指すようになった。今までは学校は教科に閉じている印象があったが、教科を超えて連携し、もっと社会とつながっていこうと。持続可能な社会なんて、まさに教科を超え、社会とつながらないと学習できないような内容だ。

先生たちのニーズとしては、いま企業やNPOが何を考えているか、生産者たちが何を考えているか、そういう社会課題、環境課題の現場の声を聞きたくなる。そうすると、われわれのような中間型のNPOも役に立つことができる。

「微力だけど無力じゃない」という言葉があるが、最近はその微力を差し向ける先を、僕らは教育にしようと考えている。結果が出てくるのは10年、20年先になるけれど。

――『未来を変える目標 SDGsアイデアブック』では、事例が多く紹介されていて、それが興味深かった。

SDGsは、目標5の「ジェンダー平等を実現しよう」にLGBTQへの言及がないとか、目標7の「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」に原子力への言及がないとか、抜け漏れもあるようなゴールだ。これを土台にして、さらに良い社会に向けて枠組みがつくられていくと考えている。

(SDGsの文書に)書いてあるのは大まかな課題と数値目標だけ。解決策は書かれていないので自分たちで考え、行動しなければならない。しかもこれまでの常識にとらわれていては解決しない複雑な問題だらけ。こうした問題の解決って、現場での試行錯誤の中でつくられていくものだと思う。

だから本を作ったときも、概念の紹介は短くして、事例で知ってもらいたいと考えた。それも単なる事例ではなく、アイデア。未来をつくっていくのは、今まで思いも付かなかったような常識を覆すアイデアだから。

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