最新記事

科学後退国ニッポン

日本で研究不正がはびこり、ノーベル賞級研究が不可能である理由

JAPAN’S GREAT SETBACK

2020年10月28日(水)16時30分
岩本宣明(ノンフィクションライター)

国立大学の法人化を機に研究者の研究費と研究時間が減ったことは政府も認めている。2017年版の科学技術白書は、日本の基礎科学の「三つの危機」の1つとして「研究費・研究時間の劣化」を挙げ、その原因として、運営費交付金などの基盤的経費の削減、競争的資金獲得の熾烈化を指摘した。交付金削減も競争的資金拡大も政府の政策なのに、まるで人ごとのような言いようだ。

国立大学の研究開発費総額は1990年代中葉からほとんど増加していない。文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)のデータによると、2000年を基点とした18年の主要各国の研究開発費は、物価変動の影響を排除した実質額で中国が11.8倍、韓国が4.3倍、アメリカが1.5倍に増加しているのに対し、日本はわずか1.3倍だ。物価換算した研究者1人当たりの研究費も、35年間全く増えていない。2017年にNISTEPが実施したアンケート調査では、研究者の83%が研究費が足りないと回答するありさまだ。研究時間も減っている。文科省の調査では、国立大学法人化以前と以後では大学研究者の研究時間が25%も減少し、研究者のほとんど全ては研究時間が足りないと嘆いている。

magSR201028_chart2re.jpg

本誌2020年10月20日号22ページより


研究者は「1回でアウト」に

大学研究者の「貧乏暇なし」が続いた結果、一国の科学技術力の指標となる総論文数の国際シェアは下降の一途をたどり、日本の大学の世界でのランキングも下がり続けている。

自然科学系の全世界の論文数は1981年の約40万本から2015年には約140万本に増加した。3.5倍である。各国が論文数を増やし続けるなかで、唯一、日本だけが近年、論文数を減らしている。1990年代後半に横ばいの時代を迎え、2000年代に論文数世界2位の座から陥落し、2013年以降減少基調に入った日本の現在の位置は、米中英独に次ぐ5位まで降下した。質の高い論文の指標となる被引用数の多い論文の数も減り続けている。

日本の未来にとって最も深刻なのは、科学者の卵を育てる大学院博士課程の空洞化だ。大学院博士課程の進学者は2003年以降、減少の一途をたどっている。将来、科学者になる可能性が高い学生はピーク時の半数に減ったと推定される。その理由は、大学の人員削減によるポスト不足のせいで、博士になっても職がないことだ。

博士課程修了者が新米科学者として最初に就く大学の助教か公的研究所の研究員のポストが、絶望的に不足している。背景には安定したポストにある研究者が高齢化し、40歳以上が大半を占めるという構造的な問題がある。博士課程修了後にすぐ、大学助教や公的研究機関の研究員など雇用期限のない安定したポストに就けるのはわずか7.5%で、1割にも満たない。そのため大半の理工系博士課程修了者は、科学者になるのを諦めて企業に就職し開発研究やエンジニアの道に進むか、40歳を過ぎるまで身分が不安定な3〜5年の任期付きの研究職を転々とすることになる。このような状況で、誰が科学者になろうという夢を持ち続けることができるだろうか。

もちろん、大学院修士課程の学生の多くは博士課程進学を躊躇している。就職難に加え、経済的負担も大きいからだ。大学・大学院博士課程の通算9年間に必要な学費・生活費などの資金は平均で1779万円。標準的な収入の家庭が気軽に支出できる額ではない。そのため、奨学金や学費免除の制度はあるが、日本の学生支援制度は非常に寂しい状況にある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=続落、ダウ約120ドル安 原油高でイ

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、有事の買い続き159円台後

ビジネス

FRB議長への召喚状差し止め、米地裁 司法省は控訴

ビジネス

米1月求人件数、694.6万件で予想上回る 採用は
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製をモデルにした米国製ドローンを投入
  • 2
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切りは常軌を逸している」その怒りの理由
  • 3
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド太平洋防衛
  • 4
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 5
    「イラン送りにすべき...」トランプ孫娘、警護隊引き…
  • 6
    有人機の「盾」となる使い捨て無人機...空の戦いに革…
  • 7
    「映画賞の世界は、はっきり言って地獄だ」――ショー…
  • 8
    『ある日、家族が死刑囚になって』を考えるヒントに…
  • 9
    謎すぎる...戦争嫌いのMAGAがなぜイラン攻撃を支持す…
  • 10
    北極海で見つかった「400年近く生きる生物」がSNSで…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 4
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 6
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 7
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 8
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 9
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切り…
  • 10
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中