最新記事

ニューロフィードバック革命:脳を変える

プロスポーツ界も注目! 脳に電気刺激を与え能力を高めるヘッドホン型デバイス

THE HALO EFFECT

2019年3月12日(火)17時05分
ケビン・メイニー(本誌テクノロジーコラムニスト)

ヘイローは消費者向けのデザインにも頭を悩ませた。ヘッドホン型なら(内側のスパイクは少々気になるが)不気味な科学実験のイメージは薄れる。充電可能なバッテリーを搭載しており、スマートフォンにアプリをダウンロードして操作。トレーニングなどのデータも簡単に管理できる。

こうして脳神経を刺激するデバイスが、消費者に受け入れられやすいデザインで誕生した。ヘイローだけでなく、競合する製品も登場している。アスリートや、記憶や認知能力の向上を目指す人々にとって、tESが当たり前になる時代がきっと来るだろう。

magSR190312-5.jpg

電気パルスがニューロンの発火を促して競技のテクニックをより効率的に習得できる COURTESY HALO

ニューロドーピングの定義

ところで、チャオは実際に使ったことがあるのだろうか。40代後半のチャオは本格的なサイクリストだ。カリフォルニア州マリン郡には、地元のサイクリストが力試しをするホーク・ヒルという山がある。ヘイローを使ってトレーニングをした後、この山道で、若い頃に作った自己記録を15秒更新したという。

私は得意のサッカーで効果を実感したいところだが、あいにくホテルのロビーでボールを蹴るわけにもいかない。ともあれ、感覚だけでも体験してみたいではないか。

チャオが私のデバイスのスイッチを操作した。頭が少しチクチクするが、不快になるほど強くはない。残念ながら脳の中で何かが起きている気配はなかったが、起きていたとしても、自分では分からないだろう。

そこが難しいところでもある。さまざまな研究が行われているが、神経細胞に電気刺激を与えることに関しては、まだ分からないことがたくさんあると、ソーク研究所(米サンディエゴ)の神経科学者ポーラ・タラルは言う。

スポーツのトレーニング施設など管理された環境で短時間使用する分には、tESの技術そのものは安全で、効果もあるようだ。ただし、扱い方の訓練を受けていない個人が効果を実感できなければ、脳に刺激を与え過ぎる恐れもある。

最適もしくは安全な使用量は確定していない。電気刺激による効果がある程度継続するのか、一時的なものなのかも、完全には解明されていない。タラルに使ってみたいかと聞くと、彼女はこんなふうに答えた。

「遊び半分で、自分の脳に電流を流そうとは思わない」

スポーツや記憶力向上のためにtESヘッドホンが普及した場合、誰がどのような恩恵を受けるだろうか。

プロスポーツの団体は、脳への電気刺激が「ニューロドーピング」に相当するかどうか、定義する必要がある。ただし、「脳に最近、電気刺激を受けたかどうかを確実に把握する方法は、今のところない」と、英マンチェスター・メトロポリタン大学のニック・デービスは指摘する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上

ワールド

ガザ支援搬入認めるようイスラエル首相に要請=トラン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中